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手術ロボット「ダヴィンチ」を操作してみた

 私も以前、ロボット手術の取材の際に、ダヴィンチを操作させていただいたことがあります。といっても、もちろん患者さんを相手にではなく、訓練用のキットをつかって指定された場所に輪ゴムをかけるといった程度の操作体験です。それだけでも、直感的に操作しやすい機械だということがよくわかりました。

 なぜ、こんな装置が開発されたかというと、きっかけは米国を中心とする多国籍軍がイラクに侵攻されたクウェートを奪還するために始まった湾岸戦争(1991年1月17日~同年2月28日停戦)です。アメリカ陸軍が戦地で負傷した兵士を、医師が現地に赴かなくても手術できるように開発を始めたのが最初と言われています。

「やっと保険適用になったのか」というのが正直なところ

 湾岸戦争終結後も民間で開発が続けられ、1999年にダヴィンチが完成。2000年には米国食品医薬品局(FDA)より承認を受けました。日本でも2000年3月に慶應義塾大学がいち早く導入し、九州大学や藤田保健衛生大学(愛知県)などで、国の承認をめざした治験が行われてきました。ですから、実は20年近くの歴史がある装置で、以前から知っている私のような者からすると最先端の技術でもなんでもなく、「やっと保険適用になったのか」と思うのが正直なところです。

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 保険適用になるまで、なぜこんなに時間がかかったのでしょうか。それは腹腔鏡や胸腔鏡の手術に比べてメリットがあるかどうか、なかなかはっきりしなかったからだと思います。確かにロボット手術には、前述のような操作のしやすさなどのメリットがあります。とくに前立腺や直腸のように、骨盤など体の奥深いところで処置しなければいけない手術には向いていると言われてきました。

米国では14年間で144人の死亡例

 しかし、腹腔鏡手術の名手などの中には「ロボット手術をやってみたけれど、メリットを感じなかった」と言う人もいました。ダヴィンチは購入するのに2億~3億円、維持費が年間2000万~3000万円、使い捨ての消耗品にも1回数十万円の費用がかかります。「腹腔鏡手術に習熟している外科医ならそんなに費用をかけなくても、もっと安いコストで同じクオリティーの手術ができる」というのです。

 また、安全性を懸念する声もありました。もし動脈などを傷つけて出血した場合、腹腔鏡手術ならすぐに開腹して止血することが可能です。しかし、ロボット手術はアームを抜いたり、機械をどかしたりするのに、少し時間がかかります。「命にかかわる事態に陥る前に、スムーズに対応できるか疑問」というのです。

 実際に、米国ではロボット手術が普及した結果、2000~2013年の14年間で144人の死亡事例、1391人の負傷事例があったと論文で報告され、多くのメディアで取り上げられました。論文によると14年間にさまざまな領域で175万件以上ものロボット手術が行われたとありますので、それから見ると144人の死亡というのは他の手術と比べて、必ずしも多いとは言えないかもしれません。しかし、日本でも保険適用になったことで、ロボット手術を行う医師や病院が一気に増えてくると、こうした問題が顕在化してこないとも限りません。

©iStock.com