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まるで「ディズニープリンセス」な地獄のミュージカル

 今回、特に注目したいのは本作の「ミュージカル」としてのクオリティの高さだ。1話につき2曲(全8話なので計16曲!)もの歌が用意されていることが驚きだが、そのどれもが耳に残る良曲揃いとなっている。第1話「幕開け」も、先述した「INSIDE OF EVERY DEMON IS A RAINBOW」に相当する、チャーリーの人格や動機を表現する新たなミュージカルナンバーから幕を開ける。

 この「Happy Day in Hell」は、ディズニーアニメ『美女と野獣』で主人公ベルが最初に歌う曲 「朝の風景」の、治安最悪な地獄バージョンという趣きだ。チャーリーが「こんにちは!」と住人に声をかければ、かえってくる言葉は「ボンジュール!」ではなく「Go F*ck Yourself!!(さっ さと失せろクソが!)」である。

 地獄のプリンセスが歌う由緒正しき「I Wish Song」(プリンセスが自分の願い=Wishを歌い上げるテーマ曲)のはずだが、道端に死体は転がっているわ、その死体を食い散らかす人食い族はいるわ、歌を邪魔する露出狂が現れるわで散々だ。ベルやアリエルやラプンツェルにはあまり見せたくない光景である。

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 しかしチャーリーは、そんな地獄でこそ輝くプリンセスなのだ。どれほど悪意や嘲笑をぶつけられようとも、決して夢と希望を捨てることなく、人々の奥底に隠れた良心や善性を見出し、皆を救おうと走るチャーリーの姿は眩しい。冷笑と絶望のはびこる荒れ果てた世界の現実に、「歌と夢」というプリンセスの武器で真っ向から立ち向かう、とても魅力的な主人公だ。

日本のファンにも大人気「ラジオデーモン」アラスター

 国産アニメが強い日本で(ディズニーなど大手以外の)海外アニメーションに注目が集まるのは珍しいが、『ハズビン・ホテルへようこそ』は前代未聞と言えるほどの熱い人気を獲得している。 その最大の秘訣は、やはりこうした魅力にあふれたキャラクターにあるのだろう。

 とりわけ地獄で最強の悪魔にして「ラジオデーモン」の異名をもつアラスターは、その鮮烈なビジュアルや性格で、アニメに目が肥えた日本のファンの心も強く引きつけている。シカのようなツノ、紳士的な赤いスーツ、チェシャ猫のような微笑み……というルックスは魅惑的で、大量のファンアートが生まれているのも納得だ。

(ラジオの悪魔だけに)歌唱シーンでの見せ場も多く、第2話「ビデオ・スターの悲劇」では、 テレビの悪魔ヴォックスVSラジオの悪魔アラスターという、一種の「メディア対決」がテンポの良いミュージカルに仕上がっていて楽しい。

 往年のラジオアナウンサーを模して喋る彼のスタイルは、ラジオという媒体がもつ洒脱でノスタルジックな魅力にあふれているとともに、(たとえば1994年の「ルワンダ虐殺」のような)歴史的惨劇を引き起こした音声メディアの深い闇をも、同時に体現しているように感じる。

 そんな敵か味方かわからない底知れなさに溢れたアラスターだが、第5話「パパ対パパ」で は、チャーリーの実の父親であるルシファーと突然の歌バトルを繰り広げて「真のパパ」の座を争ったりと、変に人間臭い(?)側面も見せてくれるのもチャーミングだ。