始まりは3分の歌だった。
2018年10月にYouTubeで公開された、約3分のミュージカル短編のタイトルは「INSIDE OF EVERY DEMON IS A RAINBOW」(直訳:どんな悪魔の心にも虹がある)。異形の者たちが跋扈するサイケデリックな地獄の世界で、主人公の女性が「魂を更生させるホテルを開きたい」と高らかに歌い上げる。
猛烈な密度と速度で炸裂するアート、耳に残るキャッチーなメロディ、過激で下品で破壊的なユーモア、それでいて不思議と優しい「あなたたちの心にも“虹(善良さ)”はある」というメッセージ……。全てが強烈で、何度も繰り返し見てしまった。
その動画が制作中のアニメ作品の一部だと知り、「もし本編が公開されたら、凄い作品になるんじゃないか」という期待に胸を膨らませた。あれから6年がたち、ついに2024年1月に公開された、待望の「本編」となる『ハズビン・ホテルへようこそ』シーズン1を見通した今わかるのは、その期待が間違っていなかったということだ。
5年待ち続けた「本編」がついに配信
『ハズビン・ホテル』シリーズは、ヴィヴィアン・メドラーノ(通称「VivziePop」)氏という、 新世代のアメリカ人アニメーターが創造した作品である。『ハズビン・ホテル』の構想を中学生の時から温めていた彼女は、その夢を形にすべく、クラウドファンディングによって資金を集めてアニメ制作に踏み切る。
2019年10月に公開された、30分のパイロット版『ハズビン・ホテル』は絶大な反響を巻き起こし、現在は1億回近い再生回数を誇っている。
そしてパイロット版から約5年後となる2024年1月、いよいよ「本編」となるシリーズ『ハズビン・ホテルへようこそ(邦題)』が、なんと今をときめくスタジオA24の制作で、しかもAmazonプライム・ビデオという巨大プラットフォームで配信される運びとなった。自主制作で始まったインディーアニメが歩む道としては、これ以上なく華々しいものだ。
約5年もの間「本編」を楽しみに待ち続けた身としても、新始動となる『ハズビン・ホテルへようこそ』への期待度は高まっていたが、いざ蓋を開けてみれば、本作の魅力をさらに高みに押し上げる、見事な出来栄えに驚かされた。