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まるで地獄の「ディズニープリンセス」…人気沸騰のミュージカルアニメ『ハズビン・ホテルへようこそ』は何がすごいのか

まるで地獄の「ディズニープリンセス」…人気沸騰のミュージカルアニメ『ハズビン・ホテルへようこそ』は何がすごいのか

現実に突き刺さるミュージカルアニメ『ハズビン・ホテルへようこそ』

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主人公カップルは女性同士! キャラ同士の関係性も「推せる」

 キャラクター単体の魅力だけでなく、キャラ同士の「関係性」が実に豊かなことも、世界中のファンの心を燃え上がらせているに違いない。『ハズビン・ホテル』シリーズがとてもクィアな(性的マイノリティのキャラクターが沢山出てきたり、肯定的に描かれる)作品であることも強調したい。

 同性キャラ同士の関係にしても単なる「匂わせ」にとどまらず、たとえば主人公チャーリーと相棒ヴァギーは公式に女性カップルである。性的マイノリティの主要キャラに正面から光を当てたメジャー作品はまだまだ少ないので、その意味でも推したい2人だ。終盤では美しいラブソングを歌い合う場面もしっかり用意されていて最高である。

 推せる関係性と言えば、やはりエンジェル・ダストとハスクは外せない。2人の関係の深まりが描かれた第4話「仮面」は、多くの人が『ハズビン・ホテルへようこそ』シーズン1のベストエピソードにあげることだろう。地獄のポルノスターであるエンジェルは、「仮面」をかぶるように軽薄に振る舞っているが、暴力的な支配者に搾取され、傷ついた心を抱えている。そんな彼 を、同じく強者に束縛された悪魔・ハスクが歌によって慰め励ます。

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 名作ミュージカル『雨に唄えば』も想起する(傘で防ぐのは雨ではなくゲロだが)優しくポジティブなメロディに、予想外に相手を突き放すようなスパイスを利かせながら、エンジェルを「俺も負け犬、お前も負け犬、でも1人じゃない」と元気づけるハスクの優しさが心に染みる。パイロット版の時点でも感じ取れた、過激さ・俗悪さの「仮面」の裏に潜む本作の優しさが前面に出 ていることが嬉しい。この「Loser, Baby」のシーンは、新時代のミュージカルアニメとしての『ハズビン・ホテルへようこそ』を象徴する名場面だ。

パレスチナで「今この時」起きていることとのシンクロ

 第4話が「神回」なのは間違いないが、個人的にはシーズン1のベストエピソードとして、第6話「天国へようこそ」を選びたい。その理由は「今この時」とのシンクロである。

 ここで『ハズビン・ホテルへようこそ』の軸となる物語を振り返ろう。本作の「地獄」には、 圧倒的な権力と武力をもつ支配者によって一方的に「罪人」と決めつけられた人々が押し込められ、虐殺が繰り返されてきた。「地獄」から出ることは決して許されず、人口密度は過剰になり、 治安も生活の質も極限まで低下する中、次なる虐殺が目前に迫っている。果たして虐殺を食い止め、「地獄」の人々を救うことができるだろうか? 

 このストーリーを見て、今もパレスチナの封鎖地区・ガザで起きている、目を覆うような惨状について連想した人は少なくないと思う。