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手術中にチェーンソーのような器械で骨をゴリゴリと切って…

――オペ看になって最初に見た手術は、どんなものでしたか?

まお 心臓の手術でした。胸骨をパカッと左右に切り開いて、心臓が見えるようにするのですが、私が思っていた動きと全然違って。「トクン、トクン」と可愛い感じの動きを想像していたのですが、実際には「ボイン! ボイン!」とめちゃくちゃ力強いんですよ。この生き物みたいに動くものが自分の中にも入っていて、体を動かしてくれているのかと感動しましたね。

――心臓の手術では、胸骨を切るんですか?

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まお 手術では、器械を使って骨を切ることもあります。チェーンソーのような器械でゴリゴリ切るんです。音や振動もすごいから、まるで工事現場にいるみたいだなと思っていました。

 そういえば、オペ看になったばかりの頃に、足を切断する手術を見学したのですが、「せっかくだからオペ看の仕事を体験してみなよ。この足を箱に保管して」と、先生から切断した足を渡されたんですよ。

「わたし今、チェーンソーでゴリゴリ切ったばかりの足を持っている」と思うと、脳内で変なホルモンがドバッと出て、思考停止するのが分かるというか……。壊死してしまい、切断をした足だったため、重くてヌルヌルしているし、色も匂いもすごくて。箱に保管したあとも、しばらく“ムニムニ”した感触が残っていました。

 表情ひとつ変えずに対応する先生や先輩の看護師たちは、本当にすごいなと心から尊敬しました。もちろん、続けていくうちに少しずつ慣れてはいくのですが。

『手術室の中で働いています。オペ室看護師が見た生死の現場』(竹書房)

手術で切った肉片が手に“ぺちゃっ”とくっついた

――いきなり衝撃的な体験をしたのですね。

まお 手術で切った肉片が飛んできたこともあります。切った肉片は先生が専用の箱に入れるのですが、手術に集中していると、その箱をめがけて投げ入れたつもりが外れてしまうことがあって。それが私の手に“ぺちゃっ”とくっついたんです。

 最初はびっくりしましたけど、他の先生や看護師が冷静なのを見ると、「私も看護師としての自覚を持たなきゃ」と思って。特に患者さんに一番近い先生は血しぶきを浴びることもあるのですが、そんなときでも淡々としています。

――場面だけ切り取ると衝撃的だけれど、患者さんを救う場所ならではのひとコマなのですね。一方で、これまで立ち会った手術で感動したことはありますか?

まお やっぱり、命の誕生の瞬間を間近で見れる帝王切開は感動します。手術開始から赤ちゃんが出るまでは5分程度で、あっという間に終わってしまうのですが、その短い時間にドラマが詰まっていて。

 帝王切開は基本的に部分麻酔で行うので、意識があるまま手術が進んでいきます。だから、赤ちゃんが生まれる瞬間の喜びを、お母さんも体感できるんです。初めて我が子と対面するお母さんの顔を見て、私が泣きそうになったことも何度かあります。

 また、お子さんが生まれたあとにお腹から「胎盤」を取り出すのですが、ツヤツヤできれいで温かいんですよ。「これがお母さんと赤ちゃんを繋げていたんだな」「これのおかげで、赤ちゃんはここまで大きくなれたんだな」と思うと、またウルッとしてしまうんです。帝王切開は「おめでとう」と言える手術なので、立ち会えるのが嬉しかったですね。