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メランコリー型の性格は、そもそも発病の「原因」なのか

 それではなぜ、かつて典型的な「うつ病になりやすい性格」とされてきたメランコリー親和型ではない人たちが、発症するようになったのでしょうか。

 ここで重要なのは、そもそも定型とされてきたうつ病患者の人たちも、ほんとうにメランコリー親和型の性格が「原因」で病気になったのか。それとも病前性格論という学説がドイツから輸入された時期に、たまたま日本社会にメランコリー親和型の労働者が「多かった」だけなのかは、“わからない”という事実だと思います。

 説明をわかりやすくするために、あえて極端なたとえ話をしましょう。かりに、遺伝子や性格とはまったく関係なく、ランダムに全人口の10%が発症する病気があったとします。そしてある時代、その国の人びとは全員が終身雇用型の企業に正社員として勤務し、与えられた職務を完遂(かんすい)することに全人生の意義を見出す働きかたをしていたとします。

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 このような状況なら、当然その病気を発症する人は、おおむねみな「メランコリー親和型」の労働者になるでしょう。

 しかし、ランダムに10%が発症するという病気の性質は変わらないまま、国民の働きかたのほうが変わったとしたらどうでしょう。つまり全人口の半分くらいはいまや、パートタイムやフリーランスの形でひとつの企業に囲いこまれずに働き、正社員として勤めている残り半分の人たちもまた、キャリアアップのために転職を意識したり、リストラの不安におびえたりしながら生活しているとしましょう。

 そのばあいは当然、発病者のなかにも、往年のよき産業戦士たる「メランコリー親和型」とは、異なる性格の人も混じってくるでしょう。(19)

 それが、なにかいけないことなのでしょうか。

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