ヤクザマンションの目の前には、公園があった。そこそこの広さがある立派な公園で、立地さえ良ければ子どもたちの定番の遊び場になっていただろう。
しかし、その公園で遊ぶ子どもの姿はほとんど見かけなかった。各家庭の親が「あの公園には近づくな」と言って聞かせていたのだ。
たまに子どもを見かけたとしても、何も知らない子が遊びに来ている程度だった。
ある時、その「何も知らない子」がマンションに住むヤクザに連れさられるという事件が起きた。被害者は小さな女の子だったが、
「おじさんと一緒に遊ぼうよ」などと声をかけられ、部屋に連れ込まれた。
近隣の学校にはすぐに情報が回り、“あの公園には絶対に近寄らないように”と厳重注意が行われた。同時に、子どもたちには防犯ブザーを携帯することが義務付けられた。
中年ヤクザに絡まれた思い出
僕も、その公園で中年ヤクザに絡まれた経験がある。
当時中学生だった僕は、その公園で他校の不良とタイマンをすることになった。人はめったに近寄らないし、ある程度の広さはあるしで、ちょうどよかったのだ。
取っ組み合いの喧嘩をしていると、マンションからヤクザが下りてきた。大声で喧嘩をしている声を聞いて出てきたのだ。
「何してんだ、やめろ!」
喧嘩を止めたヤクザは僕の相手に何やら話しかけていたが、僕はそれどころではなかった。相手のパンチで眼鏡がどこかへ吹っ飛んでしまい、それを探していたのだ。
僕の様子に気づいたヤクザは、
「なんだ、眼鏡探してんのか。俺も手伝ってやるから。ほら、お前はもう帰れ」
喧嘩相手を帰らせて、一緒に眼鏡を探してくれた。
無事見つかって礼を言うと、僕はその公園をあとにした。
その日の夕方。
別の用事でもう一度公園の前を通った僕は、自分の目を疑った。ヤクザはまだ、僕の眼鏡を探していたのだ。
「あの、さっきはありがとうございました」
内心ビビりながらも声をかけるとヤクザは激怒した。
「なんだ、眼鏡見つかったんなら言えよ!」