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研修医の6割以上がストライキに入る異常事態…韓国で「医療大乱」を引き起こした「3つの根本原因」

2024/03/07
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 地方の人々のなかには、「自分が住んでいる街で十分な治療が受けられない」と考えている人も含まれている。一方、「どうせなら、最高水準の医療機関で受診したい」と考えている人も相当数いる。例えば、「医師不足が深刻」と言われている韓国南西部の全羅南道地域。中心都市の光州特別市には国立の全南大学校と私立の朝鮮大学校という医学部を抱える大学がある。両校ともに付属病院もある。それでも、ソウルのビッグ5病院を目指す患者は後を絶たない。

ソウル大病院の予約は半年待ち

 ソウルの知人の一人は、健康診断で「血糖値が高い」と判断された。念には念を入れて検査をしたいと思い、ソウル大病院の内科に予約を入れた。返ってきた診察予定日は半年先だったという。この知人にはソウル大病院に勤務する外科医の知り合いがいるが、食事の約束をしても「急な手術の予定が入った」「研究論文の締め切りが迫っている」などの理由で、ほとんど実現したことがない。

※写真はイメージです ©AFLO

 尹大統領は2月20日の閣議で「優れた能力を持つ地域病院の存在を広く伝え、ソウル偏向現象を是正していく」と述べた。だが、元当局者の一人は「果たして、医師だけの問題だろうか」と語る。韓国の人々がよく語る言葉のひとつに「人はソウルに送れ、馬は済州島に送れ」という表現がある。人はソウルに出てこそ、立派な人生を送ることができる、という意味だ。

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 この言葉を教えてくれた知人は「韓国の地方には、やり甲斐のある仕事がない。地方には向上心に燃える人物もいない」と語る。差別を含んだ言葉とも言えるが、それほど、韓国の地方の現状は厳しい。医師のなかには義務感や義俠心にかられて自ら地方に赴く人もいる。有り難い話だが、個人の善意に頼っているだけでは、制度としての充実した地方医療は達成できない。「医師の数だけ増やせば、地方に赴く医師もいるだろう」という発想は、かなり甘いと言わざるを得ない。

医師不足の診療科目は…

 また、診療科目別の医師不足も深刻だ。現在、「美容整形外科」「皮膚科」「眼科」などの専門医は足りている一方、「外科」「内科」「小児科」「産婦人科」の専門医が不足している。知人の一人は「韓国にはオープン・ランという言葉がある」と教えてくれた。専門医が不足している診療科目では、「病院の診察時間が始まると同時に、受付に走っていく患者が相次いでいる」という意味だ。

 知人の一人は不人気診療科目について「外科は手術などで身体的な負担が大きい。内科は診療報酬が安い。小児科は、自分の病状をうまく説明できない子どもを相手にしなければいけないし、モンスター・ペアレントのクレームも怖い。産婦人科も医療事故がつきまとう」と教えてくれた。