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 尹氏は「研修医と医大生が、国民の生命と健康を盾に取ってはならない」と強く批判した。韓国政府も出勤しない研修医らに業務開始命令を出し、それでも従わない者には医師免許の停止処分も検討している。保健福祉部は3月5日から、現場を離脱している研修医らに、行政処分の事前通知書の発送を始めた。

韓国社会の反応は

 政府と研修医の対決について、韓国世論は尹政権を支持している。世論調査会社「韓国ギャラップ」が2月16日に発表した世論調査では、76%が医学部の定員増に賛成し、反対の16%を大幅に上回った。尹政権の支持率も回復傾向にあり、今のところ、世論は尹政権を支持している様子が浮き彫りになった。

 韓国政府の元当局者は「既得権を失いたくない医師のわがまま」と手厳しい。「医師の平均年収は2億8000万ウォン(約3200万円)。しかも、定年を気にせずに働ける。医師の数が増えれば、それだけパイの奪い合いが激しくなる。自分たちのステイタスを維持したいだけだ」と語る。

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 ソウル近郊に住む40代の会社員男性は「韓国で、医師は弁護士や検事らと並ぶ特別な職業という認識です。特に肩書に弱い韓国人にとって、医師という職業は圧倒的なステイタスになります。両親も、子どもを難関で学費がかかる医学部に入学させることを投資だと考えています」と話す。

「医師不足問題」3つの根本原因

 これに対し、ソウルで3月5日、外国メディアと会見した研修医の一人は「医師の数を増やすだけでは問題を解決できない」と訴えた。別の韓国政府元当局者も「この問題を医師だけに押しつけるのは可哀想だ」と話す。「今回の問題は、韓国が建国以来積み重ねてきた、様々な積弊(宿痾)が凝縮しているからだ」という。この元当局者によれば、今回の「医師不足問題」の根本は、大まかに分けて、(1)地方の医師不足、(2)特定の診療科目での医師不足、(3)ソウルの「ビッグ5」への患者集中の3つが挙げられるという。

 このうち、「地方の医師不足」と「ビッグ5への患者集中」は相関関係にある。ソウル南部、江南区にある鉄道・水西平沢高速線(SRT)の水西(スソ)駅。この駅前では毎日、何台ものバスが停車し、駅から降りた乗客を乗せて走り去る。行き先は、近くにあるビッグ5病院の一角、ソウル峨山病院とサムスンソウル病院だ。バスは病院側が準備した、駅と病院を結ぶ無料シャトルバスだ。乗客の多くは地方に住む人々だという。