小学生の時から作家が天職だと思っていた
――今のお話しを伺いますと、本当に16歳の頃に校長室に飛び込んだときから、もう多分おそらく人生の半分以上を、小説を本格的に書き始めてから半分以上になると思うんですけれども、その原動力というのはどこから湧いてくるんでしょうか?
阿部 そうですね。でも私が本格的に小説書き始めたのは小学校2年生か3年生ぐらいの時というのは、このように作家という仕事があるということがわかった時から、私は作家が天職だと思って書いてきているので、もう私は作家という仕事がなかったとしても、小説というか、物語を作らざるを得ない感じで属性としての作家だったと思ってます。どうせ書くのだったらそれでご飯を食べていけた方が幸せだと思って、どうやったらプロになれるんだろうという試行錯誤十何年の末にプロデビューしたという感じだったので、原動力というか習性みたいなものだと思います。
――『ハリー・ポッター』に夢中になった頃からの夢だったというわけですよね。
阿部 そうですね。『ハリー・ポッター』を通して私は作家という仕事がある、今まで自分がお絵かきのようにやっていた、遊びでやっていたことが、仕事になるんだっていうことを知ったので、憧れとか夢とかっていうのとはまたちょっと違うんですけれども……まぁ、いつか肩を並べてやっていきたいみたいなそういう気概はありますね(笑)。
――作品についてファンタジーだったり、異世界っていうふうに評されることが多いと思うのですが、もちろんこの現実世界とは違う世界でありつつ、やっぱりそこには人の心の動きなど私達の世界に通底するものがあるんだと思うんです。何かその一つの世界を作っていく上での現実と、世界とのバランスの取り方というか、どんなところを意識されて作っていらっしゃるのかをお伺いしたいです。
阿部 難しいですね。「モチーフ」と「テーマ」という問題がありまして、私の小説の作り方ですけれども、まずその作品を通して何を言いたいのかがテーマで、そのテーマを言うために何を使うかというのがモチーフだと思ってます。異世界を使うことのメリットというのは、むしろ私は現実世界を書くために、より純度の高い形で自分の主張をはっきりさせるために、異世界を使ってるっていう順番になりますね。
ただ、異世界は何でも好き勝手なことができるわけではなく、より地に足のついた世界を書くためには現実世界を学ばないといけないんです。私は異世界を書くのはある意味、自分で好き勝手なことをしたいから、異世界を作るんですけれども、より純度を高めていくためには、現実世界に目を向けなければならないというのは、常に胸に置いていることでして、そこのバランスを探り探りでここまで来たという感じになると思います。
ちょっと難しいんですよね。本当に何でもかんでもこれはファンタジーだから許されるんだっていうふうになったら、そのテーマ設定やテーマの伝えたいことまでもぶれてしまうので、私は変えてはいけない部分、変えてこそ意味を持つ部分というのを常に意識しながらやっています。
――同じシリーズを10年間続けるっていうことはもちろん簡単ではないと思うんですけど、10年間の中で自分の伝えたいテーマであったりとか、世界との向き合い方というのは変ってきた部分もあるのでしょうか。
阿部 ないです。そこは常に一貫してますし、多分今後もそうだと思ってます。ただ、現実世界の価値観というものはどんどん変わっていくので、(テーマや世界への向き合い方への)姿勢に関しては変わらず、ただ現実世界について常に今時分に対して意味のある問いかけをしていきたいというのは、私個人の信念として持っています。姿勢は変えず、ただ価値観に関しては、常に新しく心がけていきたいというふうに思ってます。