累計150万部を突破した阿部智里さんによる異世界ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」。その2作目である『烏(からす)は主(あるじ)を選ばない』のコミカライズが「イブニング」誌上にて連載中。2月22日には、待望の単行本第1巻が発売された。

 コミカライズを手掛ける漫画家、松崎夏未さんは『烏に単(ひとえ)は似合わない』の漫画化(全4巻)も担当し、原作の阿部智里さんとはすでに以心伝心の仲。このタッグでのさらなる飛躍が期待される。

 

「原作者の阿部さんには、ネーム(下書き)から単行本作業まで、全面的に監修してもらっています。セリフの言い回しや描写などの提案をいただくこともあります」

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 原作シリーズは烏でありながら人の姿に転身できる「八咫烏」たちの世界を描く。今回コミカライズされた『烏は主を選ばない』では、すべての八咫烏を統べる「金烏(きんう)」である若宮と、彼に仕えることになった少年・雪哉を中心に物語が進んでいくが、第一話のネームはかなり難航したそう。

「3年くらい原作シリーズをこねくりまわしての第一話です。若宮が遊郭にいるシーンで派手に始めたらどうかとか、雪哉が地元の友達と転身するシーンから始めようとか、いろんなパターンを考えて、何度もボツになりました。最終的に、もっと不穏にしていい、ということで、この一話になりましたが、ベタすぎませんか? 大丈夫ですか?(笑) 小説は、世界観とそこで起きる出来事を俯瞰するような視点で進んでいったと思うんですけど、漫画ではがっつり雪哉の気持ちに入り込めるような構成にしています」

 ネームを描くたびにシリーズをまとめて読み返すという松崎さん。おそらく、今いちばん八咫烏シリーズに精通している人間のひとりだ。

「『単』の時よりもさらに、先々を意識して描くようにしています。最新刊『楽園の烏』のことまで頭に入れつつ……。原作はシリーズ通して伏線が張り巡らされているから、コミカライズ版でもそれはちゃんと汲み取らないといけないと思うので。それでも『主』にまだ私の知らない伏線がありそうで怖いんですよね」

 大筋では原作に忠実なコミカライズだが、漫画オリジナルのエピソードの構想も。

「『主』は八咫烏の世界のなかでも貴族たち、上流階級の話なのですが、市井の人たちの暮らしも、この段階で描いておきたいなと。あとは『主』のひとつ大きなテーマとして『忠誠』というものがあるので、それに関わることもちょっと膨らませて描きたくて。オリジナル要素によって、原作のエピソードがさらに補強されるような、意図のあるものにしていきたいですね」

 最後に、この作品にかける意気込みを教えてもらった。

「原作を読んでいる方に『漫画だから物足りない』って思われたくないんです。漫画だけを読んでも、八咫烏シリーズがきちんとわかるようにしたい。その上で漫画を入り口に原作も読んでもらって、『こんなに面白いんだ』って思ってもらえたら最高ですね」

まつざきなつみ/1991年、宮城県生まれ。2016年『その男、アイドルにつき』にてデビュー。他の作品に女たちの青春を描いた短編集『ララバイ・フォー・ガール』(祥伝社)。

烏は主を選ばない(1) (イブニングKC)

阿部 智里 ,松崎 夏未

講談社

2021年2月22日 発売

烏に単は似合わない(1) (イブニングKC)

阿部 智里 ,松崎 夏未

講談社

2018年11月14日 発売