過去の「八咫烏シリーズ」には打ち切りの危機も

――12年間という長いシリーズで漫画にもなり、アニメにもなりということで、漫画やアニメという他ジャンルのものになるということへの感想と、もうひとつそれを含めて、もしこれがあればいいんですけども、普段の読者、ファンの方に対してこんなところまで「八咫烏シリーズ」が広がってるんだ、こんなとこが届いているんだというような、体験とか経験がありましたら教えてください。

阿部 まずメディアミックスでいろんな形になるっていうことは、私は大変ありがたいことだと思っています。本当にコミカライズに関しては、実際監修までやらせていただいて、松崎夏未先生が本当に素晴らしい漫画を描いてくださって、これは私はすごい幸せ者だと思っています。アニメに関してはこれからなんですけれども、でも脚本に関しては本当に丁寧に向き合ってくださったと思っていて、私が大事にしたかったのはやはりその物語を通して何を言いたいかっていうところだったので、そこを尊重していただける方たちに恵まれたということは非常に幸運だったと思ってます。

 こんなところまで(広がっている)というのは、ちょっとなかなかいい例は思いつかないんですけれども、でも最近は昔に比べてとてもジャンルが大きくなったんだな、とふと感じることは結構あります。お恥ずかしい話ながら、やっぱり作品も打ち切りの危機があったりとか、打ち切りの危機があっても担当編集さんは、「いや大丈夫です。続きを書いちゃえ」みたいに言っていたんですけれど(笑)、でもそういう売れなくてどうしたらもっと売れるんだろう、って普通に悩んだこともあります。

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 そういうことを考えると、最近やっぱり本を出して昔に比べて全然ご感想もたくさんいただけるようになりましたし、いろんなところからお声掛けをいただけるようになったっていう時に、作品も私も知らないところで、やってることは変わらないんだけれども、でもいろんなところに届いてるんだなっていうのをしみじみと感じることは多々ありますね。

――今回の吉川英治文庫賞ということで、単行本はもちろん出版されてらっしゃると思うんですが、文庫本として出版されることで、例えばより幅広い読者さんに広がったと感じられた点などがありましたら教えていただけますか。

第45回吉川英治文学新人賞の藤岡陽子さん、第58回吉川英治文学賞の黒川博行さん、第9回吉川英治文庫賞の阿部智里さん。

阿部 やっぱり多分単行本に比べると、文庫本になった瞬間に広がり方が大きいというのは実感としてあるんですけれども……でもこんなこと言うのもあれですけど、私は小説というのはやっぱり情報だと思うので、情報というものは出た瞬間に最も価値が高くて、時間が経つに従って金銭的な価値が低くなってくると思います。それは作品の価値とはまた別の問題であって、作品の価値は変わらないんですけども、情報=売り物としての価値というものはどんどん下がっていくと思っているんですね。

 その中で私は文庫としてまたより大きな層にリーチできるというのは、非常にありがたいことだと思っています。私は既に1回世に出たものというものは、どんどん広げていくべきだというか、そこをてらいなく押し出していきたいというものがあるので、私としては、この文庫が評価された、シリーズものとして評価されたっていうことは、一緒に文庫を一生懸命売りたいっていうふうに言ってくれてる人たちの、この熱意みたいなものがうまく作用して、それらが形になったっていうふうに考えています。

(3月5日、帝国ホテル記者会見場にて)