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韓国の芸能事務所と裁判→6600万円の賠償命令→所持金110円に…日本人K-POPアイドルが明かす「契約解除訴訟」の顛末

韓国の芸能事務所と裁判→6600万円の賠償命令→所持金110円に…日本人K-POPアイドルが明かす「契約解除訴訟」の顛末

『日本人が韓国に渡ってK-POPアイドルになった話。』より #2

2024/03/17
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契約解除を求める裁判が始まったが…

 会社を出ようと決断した時、僕の契約期間はまだ3年ほど残っていたが、契約満了まで体調を崩しながら過ごすよりも、会社を出るほうが僕らには正しい、そう判断したのだ。この時から、契約解除を求める法廷での裁判が始まった。

 法的処置を取る際、周りからのバッシングやあることないことを言われる覚悟をしたほうがいいと聞いたことはあった。それなりに覚悟はしていたが、実際に裁判が始まり記事が出ると、その一言一言は、思った以上に心にくるものがあった。それは自分で決めた道なので自業自得と言われればそれまでだが、周囲の関係者にかけられる言葉が僕らの心をさらにえぐった。3年くらい我慢すればいい。会社を出ないほうがお前らのためだ。こういった意見だった。

 僕らがどんな環境にいたのか、どんな実態だったのか、分かっているはずの人たちの言葉。ましてや芸能関係者であれば、今の芸能界に広がる闇と呼ばれる部分も知っているはずなのに、その人たちから発せられる言葉に、奴隷のままでいなさい。そう言われているように感じた。

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 その人たちの本心は分からない。心から僕たちのことを想って言ってくれた言葉だったかもしれない。でもその時の僕らにとってその言葉は、とても冷酷で無慈悲であると感じてしまった。追い打ちをかけるように、裁判官の一言が僕らの考えていた正当性を崩すことになる。「アーティストと会社は親子関係と同じなのではないか。会社の経営が大変なのであれば、アーティスト側が理解する必要があるのではないか」この言葉をどう受け取るかは、この本を読んでくれているあなたに託したいと思う。

画像はイメージです ©PantherMedia/イメージマート

夢を追いかけた先に約6600万円の借金ができた

 訴訟は1年半以上にも及び、判決は一部勝訴となった。僕らが要求していた契約解除は認められ、被告側が僕らに要求していた損害賠償金約30億ウォン(日本円で約3億4千万円)のうち、約8億8千万ウォンの支払いが僕らに命じられた。残っている契約日数によって、僕は約6600万円の借金ができた。これが法の下した答えだった。

 僕が夢を追いかけた先に借金ができた結果を見た時、会社を出たことは正解だったのだろうか。そして、借金ができた理由は僕たちが悪かったからだろうか。金額という可視化された情報だけを見ると、僕たちに非があったと捉えることもできるだろう。正直言って、とてつもなく悔しい。けれども法の上ではそれが事実になってしまう。

 ここで僕が間違った事実だと、真実を全て告白したところで、それが変わることはない。ただの感情の争いになってしまうだけだ。だからこの文章も、どこか抽象的で情報が伝わりづらくなってしまっているかもしれない。それでも芸能界にこびりつく不透明な何かを、本という媒体を通して伝える価値は十分にあると思った。答えは僕の中にあり、あなたの中にある。そう信じている。