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《補償合意書 初公開》元ジャニーズJr.が証言「わずか数百万円……。足元を見られている感じはしました」

《補償合意書 初公開》元ジャニーズJr.が証言「わずか数百万円……。足元を見られている感じはしました」

2024/03/09

source : 文藝春秋 文藝春秋電子版

genre : ニュース, 社会, メディア, 国際, オピニオン, ウェビナー, 企業, 芸能, テレビ・ラジオ

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「補償金額のご通知」と題した書面を開くと……

 それからひと月経たない時期に送られてきたのは、「補償金額のご連絡」と題したメールだ。補償金額を通知した上で、《ご同意いただける場合》は同意書の締結を、《その他の場合》には同意しない理由を知らせるよう選択させるものだった。Aさんが気になったのは、下記のような文言だった。

《本手続は皆さまへの誹謗中傷を防ぎ、今後の補償事務に支障が生じないためにも、完全非公開としております。補償金額のご連絡を含めた当委員会の手続や当委員会とのやりとりの内容は、公にしないようお願い申し上げます。》  

 また、補償金額の通知方法にも疑問を抱いたという。メールに添付された「補償金額のご通知」と題したPDF書面を開くと、そこには金額だけが記されていた。

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算定基準や算定理由の記載の一切ない、「補償金額のご通知」文書 ©文藝春秋

 Aさんはこう話す。

「あなたはいくらですといった簡単な内容で、記載されていた金額は、わずか数百万円……。向こうの言いなりの金額で、足元を見られている感じはしました。ですが、法律の知識もないので反論する自信もなく、提示された金額で自分を納得させて合意書を取り交わすことにしました。正直、妥当な金額だったのかどうかはまったく分かりません」

「虚偽の被害申告を防止するため」被害者に守秘義務を負わせる

 Aさんが金額に同意した上で、SMILE-UP.と取り交わした「補償合意書」の文面も見てみよう(下線は筆者による、以下同)。

《4 乙(=SMILE-UP.)は、法令等に基づき開示義務を負う場合を除き、具体的な性被害の内容や病状その他の甲のプライバシーにわたる情報について守秘義務を負う。甲(=被害者)は、第三者による虚偽の被害申告を防止するため、法令等に基づき開示義務を負う場合を除き、被害者救済委員会又は乙との間における質疑内容その他の賠償金額の算定過程に関する情報及び賠償金額その他の本合意書の内容について守秘義務を負う。》

 Aさんは言う。

「気になったのは〈守秘義務〉という文言です。何か、縛られている印象を持ちましたし、『精神的なダメージがある人に追い討ちをかけるのでは?』と思いました。『守秘義務条項は弁護士とスマイル社のどちらが付けているのか?』『違反すると罪に問われるのか?』。不安に思って、周りに相談できる人もいなかったので、エイトさんにDMで連絡したのです」

SMILE-UP.の回答に専門家は「国際基準に反している」

 守秘義務があることで被害者同士の情報交換や連帯は阻まれ、金額の多寡に関して疑心暗鬼が生まれている。世界的に見ても、最大・最悪規模の未成年の少年たちへの性加害事件である。そんな未曽有の性加害を繰り返した創業者の犯罪を放置し、隠蔽にも関わったことが疑われている企業が、被害者へ一方的に守秘義務を課していることに問題はないのだろうか。

 筆者は、SMILE-UP.に質問状を送り、回答を求めた。

SMILE-UP. が2月29日に寄せた回答文書 Ⓒ文藝春秋

1)守秘義務について

 Q.加害側企業が被害者に守秘義務を負わせることについて、「当事者の会」も含め、被害者からは守秘義務条項の撤廃を求める声もある。こうした声にはどう応えるのか? 

 A.《弊社は、補償金の支払を受けた被害者の方々から、誹謗中傷を受けることを避けるために、具体的な補償金・総額等を開示しないでほしいとの要請を受けております。また、弊社は、被害者の方々から、自らの被害に乗じた事実ではない申告(誇張申告を含みます。)を十分にスクリーニングするように要請を受けております。》《弊社としては、秘匿条項を設けるべきではないという意見があることは把握しておりますが、上記の理由から、補償手続に関わる事項を口外することを差し控えていただくようにお願いしている次第です。》

2)補償金額の算定基準について

 Q.救済委員会が公表する「補償金額の算定に関する考え方」には、算定の具体的基準を示した記載は一切ない。また、被害者への面談や各種書面通知においても、算定基準や個人の補償金額の算定理由について一切の説明がない。「当事者の会」をはじめ被害者からは算定基準を開示するよう要望があるが、こうした声には応じないのか?

 A.《弊社としては、申告者に厳格な証明を求めないという被害者救済委員会による手続の特質上、被害者救済委員会から現時点で示されている考慮要素以上に詳細な基準等を公表することは、事実ではない申告(誇張申告を含みます。)に利用されかねず、適切ではないと考えており、これ以上の詳細な基準の公表を被害者救済委員会に求めないこととしております。》