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3)保有資産(支払い能力)の公表について

 Q.被害者救済を目的に設立された株式会社として、事業目的遂行のためには保有資産の公開と分配方針について公にする必要があると考えるが、貴社の認識は? また、残余財産が発生した場合、株主への分配や後継会社への継承の可能性は?

 A.《弊社としては、現在、補償の責任を果たすことに尽力しており、最後の被害者まで補償を行う所存です。現時点では残余財産の方針を決定しておりません
 なお、STARTO社は、弊社とは資本関係のない、別個独立の会社であるため、誤解を避けるため、「後継会社」との表現については、再考を頂きたく存じます。》

4)今後の会見予定について

 A.《弊社としては、本件は、被害者のプライバシーにも十分な配慮をしつつ対応すべき事案であると認識しており、被害者の方に個別に必要なご説明を差し上げております。》

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 こうしたSMILE-UP.の回答について、前出の伊藤弁護士は問題点を次のように整理する。

「これだけの被害を出しておきながら、被害者をタテにして説明責任を逃れるとは、言語道断です。一部の被害者の要請には応じる一方で、『当事者の会』をはじめとする被害者の要請には応じず、非常に不公平です。企業による大規模な人権侵害が起きた場合、被害者の救済にあたって則るべき原則が、国連人権理事会が採択した『ビジネスと人権に関する指導原則』です。再発防止特別チームがまとめた報告書でもこの原則を参照しています。そこでは、被害救済の適切性は、“正当性”=被害者からの信頼性を得ているか、“公平性”=被害者に必要な情報や専門知識へのアクセスが確保されるよう努めているか、“透明性”=被害者に対し救済手続きの経過を十分説明し公共の関心に応える十分な情報提供があるかなどの基準に沿って判断されます。しかしながら、算定基準など十分な情報を与えず、守秘義務撤廃などの要請にも応じず会見も行わないSMILE-UP.の救済手続は、この全てに反するものといって過言ではない。専門知識を持ち合わせず数百万円という安価な補償金額で合意に達する被害者も出ているなど、被害者間での公平性も疑われ、十分な救済が行われているとは到底言えません」

 また、Aさんに提示された金額についても驚きを隠さない。

「口淫の被害を受けた被害者が、わずか数百万円の補償金額を提示されているとは、本当に驚きました。Aさんがいまでも被害の状況を克明に記憶しているように、幼少期に受けた性被害の精神的ダメージは計り知れません。仮に裁判になれば、算定される損害の額は数百万円ではきかないはずです。SMILE-UP.の回答からは、被害事実の厳格な証明を求めずに補償金を支払う今回の手続が、なにか特別な恩恵であるかのような印象を受けますが、過去の判例に照らし合わせても、数百万円の補償額では、“法を超えた救済”とは到底言えないでしょう」

 さらに、前代未聞の性加害事件において救済が適切に行われるためには「メディアやスポンサー企業の監視が不可欠」と指摘する。

「いま明らかになっている内容だけみても、適切とは程遠い救済であることは明らかです。こうした状況で旧ジャニーズのタレントの起用を判断するのは時期尚早であり、被害救済の適切性を各企業がどのように判断したのかを明らかにするなど、メディアやスポンサーも国際基準に則った社会的責任を果たしていく必要があります」

「被害者に寄り添う形になっていない」

 全てが闇の中で進められている。公表するのは人数のみだ。なぜすべてを明かしてオープンな形で進めようとはせず、水面下で収束へと向かわせるのか。SMILE-UP. は、こうした数々の問題点について改めて会見を開いて答えるべきだろう。

 AさんはジャニーズJr.として活動していた当時の写真を見せてくれた。自身が掲載されたアイドル雑誌を表紙の記憶を頼りにオークションサイトで探し、買い求めたという。そこにはあどけない顔の少年が写っている。Aさんに、ジャニー喜多川氏への感情を訊くと「生きていたら償ってくださいと言いたい」と答えた。そして、SMILE-UP.の対応についてはこう指摘した。

「被害者に寄り添う形になっていない。すべての人を救うのは無理だと思うが、多くの人が納得する形になるのがベスト」

 世界最大・最悪の性加害事件をブラックボックス状態のまま、終わらせてはならない。

「補償金額のご通知」や「補償合意書」の画像や全文、Aさんが経験した被害交渉の全貌は、「文藝春秋 電子版」の鈴木エイト氏の記事「元ジャニーズJr.が証言「被害者に追い討ちをかけるもの」問題だらけの《補償合意書》を初公開する」で見ることができる。