「手作りならではの魅力を見せていきたいです。スープも時間や日によって味が変わっていきます。でもこれは美味しい中での表情の変化です。インスタントラーメンではないので、多少変わっていくのが魅力だし、飽きない秘訣(ひけつ)かなと思います」(正弘さん)
「多賀野」は煮干しをだしパックにして追い煮干しをしたり、ブレンダーを使ってエスプーマ状のスープを作ったりと、通常のラーメン店とは違うやり方で独自の味を作り上げてきた。その製法は多くのお店に影響を与えている。修業せずに独学でオープンしたからこそできる究極の我流なのだ。
“美味しい”に国境はない
「多賀野」には外国人のお客さんも多い。外国人のお客さんというと観光客をイメージすると思うが、「多賀野」に来る外国人客はリピーターが主だという。
「彼らは何度も来て同じメニューばかり食べていきます。塩ラーメンばかり食べる中国人の方や、ごま辛(ごまの辛いそば)ばかり食べる欧米の方、ベルギーの方で週2回来られる方もいます。あくまで“和”のラーメンなのですが、彼らとしても食べたことのない味なのだと思います」(正弘さん)
正弘さんと多賀子さんが夫婦並んで作る姿は、こちらが笑顔になってしまうぐらいの幸せ感。時にはケンカをしながら作っているが、それもスパイス。常連客はそれを見ながらニヤッと笑っている。
これからはお店をゆっくり続けながら弟子を育てていく。
「多賀野」出身の店には「とんちぼ」「榮田」「笑歩」「時雨」など各地の名店がある。
弟子に包み隠さず教え、「多賀野」イズムを伝えていく。今も、修業をしたいと弟子候補の履歴書が10通順番待ちをしているという。
職人の魂の入ったラーメンは相手が日本人でも外国人でも関係ない。
美味しいに国境はないのである。
ラーメンライター、ミュージシャン
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。