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物忘れがひどくて、疲れやすい。最近ふえている「能力減退症」とはどんな病いか

4000人を診察した医師からの警告

2018/04/16
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原因は何か。治療法は?

 僕はこれまで4000人の患者を診てきました。「能力減退症」を疑ったときは、面談で聞き取り、合わせて血液検査をしています。そうしますと、白血球の減少や白血球像の変化、コルチゾールの低下などが見られ、好酸球にも異常が見られます。

 いまのところ、原因を特定するまでに至っていないのですが、ひとつには本人の遺伝的な体質があると思います。化学物質過敏症の人は、ほかの人が平気な物質に反応して病いになりますが、能力減退症の患者は、まだ知られていない化学物質や汚染物質に反応しているのかもしれません。ばい煙や農薬、電磁波などが影響することもあるし、とくに、大気と土壌の汚染は、弱い体質の人たちを直撃して、症状を引き起こしていると思います。ストレスも関係するでしょうが、小さな子どもにも患者が多いことを考えると、主要な原因にすることは疑問です。時間の経過でみると、この数年間なにか特殊な事象が進行し始めたのかも知れません。

 治療は、僕なりの方法で「能力減退症」に対処をしています。投薬と転地療養が中心で、患っている人が本来もっている抵抗力や治癒力をあげるお手伝いをすることが中心です。治療が効いて、患者さんが元気になるのをみるのがいちばん嬉しい。とくに、小さな子どもだと、本来もっていた子どもらしさが戻ってきます。

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 僕の医院に来たときには、疲れて待合室でイスをつなげて寝ていた子がいました。診察室に入っても、お母さんと僕が3、4分話しているあいだ、座っていられずに診察台にあがって横になってしまう子どももいました。そうした子が、お行儀よく座っていられるようになるし、診察室にある医療器具を面白がって見にきたりと、元気になります。顔色もよくなって、宿題もすぐに終えて遊びに行けるようになるのは本当に嬉しいことですし、なにより本人たちがとても嬉しそうです。

©iStock.com

 ただ、こうした変化は大切ですが、どこまで正常値まで回復しているかは、継続して注意しなければなりません。また、すべての患者に対してうまくいくわけでなく、一進一退を繰り返して、数年かかってもあまり改善しない人もいます。

「能力減退症」にかかる前に気をつけることはなかなかできませんが、自分や家族がもしかしてそうかもしれない、と思ったら、僕は保養を勧めます。保養なんて、昔のことではないかと思われるかもしれませんが、効果のある方法です。できれば空気のきれいな島がいいのではないでしょうか。なるべく都会の喧騒を離れて、少し遠くの沖縄や、瀬戸内もいいと思います。実際、僕の医院のある岡山に来た患者は、1週間の滞在で元気になって帰っていく人がたくさんいます。

 まだ未知の部分のある「能力減退症」ですが、患者さんの苦労はたいへんなものです。なるべく多くの人に病いの現実を知ってもらい、また、治療や研究に名乗りをあげる医師の出現を待ち望んでいます。

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三田 茂(みた・しげる)

 

1960年生まれ。1985年信州大学医学部卒業。内科医師。先代が1963年に東京で開業した内科医院に勤務。のちに岡山へ移転。大学卒業時、大学病院の権威主義的な雰囲気が嫌で、専門医でなくゼネラリストを目指せる病院で研修。東京では医師会理事と、災害対策担当理事としても活動。「視野を広く保つためには専門分野はつくらないのが私位の能力の者には必要と思います。ですから私は医学博士でもないし、専門医資格も持っていないただの開業医です」
三田医院
http://mitaiin.com/

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