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「映画を観に来てくださるお客さまに俳優ができる精一杯の誠意だと…」若葉竜也が主演2作目でも追求したもの

映画『ペナルティループ』

2024/03/17

source : 週刊文春CINEMA 2024春号

genre : エンタメ, 映画

note

 プロになりすぎることへの怖さというのか、作品を重ねるごとに、演技も場の空気感をつかむのも上手になっていくんですけど、その分、無我夢中のエネルギーが減って魅力が失われていくことですね。だから僕は、「芸能人」にはならないように、常に自分の精神状態をアマチュアに置いています。

「役作り」はしたことがないし、どういうものかもわからない

──若葉さんが演じるキャラクターは、本当にこういう人なんだろうと思わせるリアルさがあります。それは「プロ」のなせる業なのでは?

若葉 僕はいつも、作品の中のキャラクターを演じているのではなく、ただ作品の中に生きる生身の人間を表現したいと思っています。だからプロの俳優ですけど、「プロの演技」をしているわけじゃない。

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 …と、ずっと思ってたんですが、もう限界かも(笑)。何年か前にもう持っている引き出しは全部開けちゃったので、ここからは積み上げてきた芸歴や引き出しなんか捨てて、ひとつひとつ作品に向き合っていくしかなさそうです。自分の演技の型を持っていて、それで通せれば楽なんでしょうけど、自分でもつくづく非効率な人間だなと思いますよ(笑)。

──演技の技を積み重ねる「足し算」ではなく、「引き算」なんですね。役作りはどのようにしているのですか?

 僕はこれまでどの作品でも役作りをしたことがないんです。「役作り」がどういうものなのかもわからない。

 今作でも、岩森淳という人間がどういう性格でどんな人物かはどうでもよくて。それより、カルト映画のような不可思議さや、一発の銃弾で殺せる相手を弾切れになるまで撃ち続ける人間の残虐性といった部分を出すことが僕にとっては重要でした。

©杉山拓也/文藝春秋 

 岩森が溝口(伊勢谷友介)を刺し殺すシーンでは、衣装につける血糊の位置にもこだわりました。血が飛び跳ねる位置って、どこをどういう体勢で刺して、どのくらい出血したかで変わってくるので、そういう細部にまでこだわりました。それがお金を払って映画を観に来てくださるお客さまに俳優ができる、精一杯の誠意だと思っています。

伊勢谷友介と初共演「小学校6年生の男の子みたいでしたね(笑)」

──前半はほとんどセリフがありません。演じるのが難しくなかったですか?