『ペナルティループ』――若葉竜也さんが主演をつとめる映画のタイトルである。
若葉さん演じる岩森淳は、目覚めるとベッドにいた。意識と視覚が次第に像を結ぶ。耳元では誠実な語り口のアナウンスが響いていた。
〈おはようございます。6月6日、月曜日。晴れ。今日の花はアイリス。花言葉は「希望」です〉
作業着に着替えると自ら車を運転し仕事場へ向かい、課せられた作業をこなし休憩をとる。そして、目の前に現われる溝口登(伊勢谷友介)を殺す。それが勤めであるかのように。再び朝を迎えるとその日も岩森は溝口を殺す。何度も何度も――。この奇妙な出来事を、若葉さんも撮影で体験することになる。
「映像作品では同じシーンを撮るのに、3日、4日かかることがあります。そういう時は時間がループしているような感覚です。この作品でも岩森は“同じ日”を生きることになります。ただ、シーンごとに異なる朝をどう迎えるのか、肉体や精神の疲労、目に映る景色に彼は何を感じるのか。その見せ方がとても重要になるので、監督との話し合いはとても大事でした」
荒木伸二監督が脚本も務めた本作。監督は、最愛の人・唯(山下リオ)を殺された岩森が、溝口への復讐を繰り返す物語の骨格を組み立てた。
「決定稿はさらにそこから1年近くかけて検討され、プロデューサーや助監督、僕も意見を出して作品の世界観を固めていきました。せりふは最小限に抑えるため、かなりそぎ落としています。言語を超えたところで何が伝わるか、海外で観ていただいた方はどう感じるのか。公開を前にした今、とても関心があります」
なぜ同じ朝が明けるのか。誠実そうに語りかけるアナウンスから始まる、岩森が存在するこの世界は一体何なのか。
「岩森は溝口への復讐をやめません。当たり前ですが人を殺める心情を理解するなんて到底できない。それでも岩森として佇むために、どうすれば同期できるところへ意識をもっていけるのだろうか。気が付いたのは人間の本質的な姿でした。幼い頃、小さな生き物に向けた、無邪気で無意識な残虐性や凶暴性。それらは時間や経験とともに抑制される。ところが鎮めたはずの攻撃性も、たとえば週刊誌やSNS上で獲物を見つけた瞬間に、その原始の衝動を躊躇なくむき出しにしているとは思いませんか? これは決してSF世界の人の姿ではないということです」
復讐の果てに岩森が表出させる感情は、観る者へ何かを投げかけている。単なる復讐劇だったのだろうか、なぜ我々に「ペナルティ」と掲示していたのか、と。
わかばりゅうや/1989年、東京都出身。2016年、映画『葛城事件』で第8回TAMA映画賞最優秀新進男優賞受賞。他に『愛がなんだ』(19)、『罪の声』(20)、『ちひろさん』(23)、『愛にイナズマ』(23)など出演作多数。
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映画『ペナルティループ』
3月22日(金)、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国公開
https://penalty-loop.jp/