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この作品で伝えたかったこと

 Integrityを警察官というキャラクターを通して見せることが、今回の作品を書くうえで私にとって重要なタスクでした。彼──Titus(タイタス)は、決して完璧な人間ではありません。過ちも犯しますし、さまざまな感情も抱きます。そんな人間が、常に正しいことを行うのは簡単なことではありません。それは、私の父がよく言っていたことでもあります。正しいことが何かは分かっても、正しいことをするのは困難なんだよ、と。

取材中、ブルース・リーのサイン入りモデルのスニーカーを見せるコスビー

 間違ったことをする、過ちを犯すということは実は非常に容易なことでもあるんです。正しいことをするには、非常に大きな負担が伴います。ましてや主人公の住む町の人々は、彼のことを嫌いになったりもします。彼は彼で町の人々に落胆したりもする。それでも彼は自分の人生を賭けて人々を守ろうとし、正しいことをしようとする。それは非常に困難なことであるにもかかわらず……という状況が、読者のみなさんにとって面白いのではないか。そして、彼のその態度は非常に重要なことなんだということを、この作品で伝えたいと思いました。

 さらに付け加えるならば、この作品ではアメリカにおける宗教的な問題、それから人種的な問題を全面的に取り上げています。この二つの問題は、お互いに結びついているというふうに私は思っているんです。それを、マーダーミステリー、殺人事件の謎を追うミステリーというストーリーに包み込んで書いていきました。

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●警備員や建設作業員、葬儀社のアシスタントとして働いたコスビーの経験や、江戸川乱歩や島田荘司への興味、63回のボツをもらった作品の話など、インタビュー全文は『週刊文春WOMAN2024年春号』でお読みいただけます。

聞き手・加賀山卓朗(翻訳家)
text:Daisuke Yoshida
interpreter:Miwa Monden

S. A. Cosby/米国ヴァージニア州出身。クリストファー・ニューポート大学で英文学を学んだのち、警備員、建設作業員、葬儀社のアシスタントなど様々な職業を経て作家に。『頬に哀しみを刻め』はオバマ元大統領が2022年、23年の夏の読書リストの1冊に挙げた。