他方、日本人を含むアジア系からの反論も出ている。
曰く「いくら大物俳優といってもアカデミー賞という大舞台では、さすがに気が動転していたはず」「ロバート・ダウニー・Jr. は舞台裏でキー・ホイ・クァンと握手やハグをしている」「エマ・ストーンとジェニファー・ローレンスは親友だから、ミシェル・ヨーの気遣いだった」など。
マジョリティ属性の一般人が日常生活でアジア系を透明人間と見做すのであれば、映画界やアカデミー賞も当然、アジア系を透明人間として扱う。どんな業界や団体も結局は「人」で構成されているからだ。
たびたび問題視されてきたハリウッドの体質
エマ・ストーンは映画『アロハ』(2015年)でハワイ先住民と中国人をルーツに持つアリソン・ング役を演じた。この作品はさまざまな民族が共存するハワイが舞台であるにもかかわらず、エマ・ストーンをはじめキャストのほとんどが白人で構成されていることが物議をかもした。
キャストだけでなく、キャメロン・クロウ監督や製作者、映画会社まで含めて誰もが「特に問題なし」としたために起こったことだった。最終的に監督は「配役に違和感がある、または間違いだと感じているすべての人に心から謝罪する」と謝罪するに至った。
この件を含め、ハリウッドのアジア系差別および軽視を鋭く批判したのが、韓国系カナダ人の女優サンドラ・オーだ。2018年、オール・アジア系キャストの『クレイジー・リッチ!』が世界的な大ヒットとなったが、これは1993年公開の映画『ジョイ・ラック・クラブ』から実に25年振りのことであり、当時、そうした背景も含めて大きな話題となった。
同作はゴールデングローブ賞の作品賞と主演女優賞にノミネートされ、授賞式の司会を務めたサンドラ・オーは壇上で皮肉なジョークを発した。
「アジア系アメリカ人が主役を務めた作品としては『ゴースト・イン・ザ・シェル』と『アロハ』に続くものです!」
『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)は主人公・草薙素子役をスカーレット・ジョハンセンが演じており、ホワイトウォッシングされた作品として『アロハ』と共に引き合いに出されたのだった。
このジョークの後、サンドラ・オーは真摯な表情となり、「変化の瞬間を目撃している」とスピーチを行った。しかしながら、アカデミー賞は『クレイジー・リッチ!』を、どのカテゴリーにおいても一切ノミネートしなかった。ちなみに同作にはミシェル・ヨーも重要な役で出演しており、その演技が高く評価されていた。