文春オンライン

「あなたは一般的に人を信用できますか?」 “日本で最も自殺が少ない”徳島県の小さな町で目立った“意外な答え”とは

『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』より #1

2024/04/02

genre : ライフ, 社会, 教育

note

「取り返しのつかない事態に至る前に周囲に相談せよ」

自殺予防因子その4──「病」は市に出せ(すぐに助けを求める)

 海部町の人がいう「病」とは、たんなる病気のみならず、家庭内のトラブルや事業の不振、生きていく上でのあらゆる問題を意味している。そして「市」というのはマーケット、公開の場を指す。体調がおかしいと思ったらとにかく早めに開示せよ、そうすれば、この薬が効くだの、あの医者が良いだのと、周囲が何かしら対処法を教えてくれる。まずはそのような意味合いだという。

 同時にこの言葉には、やせ我慢すること、虚勢を張ることへの戒めがこめられている。悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思いきってさらけ出せば、妙案を授けてくれる人がいるかもしれないし、援助の手が差し伸べられるかもしれない。だから、取り返しのつかない事態に至る前に周囲に相談せよ、という教えなのである。

ADVERTISEMENT

自殺予防因子その5──ゆるやかにつながる

 海部町は物理的密集度が極めて高く、住民同士の接触頻度は高い。一方、隣人間の付き合いは、基本放任主義で、必要があれば過不足なく援助するというような、どちらかといえば淡白なコミュニケーションが多いという。

 近所との付き合い方は「立ち話程度」「あいさつ程度」と回答する人たちが8割を超えていて、「緊密(日常的に生活面で協力)」だと回答する人たちは16%程度だった。一方で、自殺で亡くなる人の多い地域は「緊密」と回答する人が約4割だった。

 また人間関係が固定しておらず、他の地域の相互扶助組織が事実上の強制加入制であるのに対し、海部町は任意加入で、入退会に際し個人の自由が尊重されている。自分一人が入会しないからといって、そのことを理由にコミュニティ内で排除されたり、不利益を被ることもない。複数のネットワークが存在し、ちょっとした逃げ道や風通しをよくする仕掛けが多く存在する。

 これらの特徴と今の日本の学校を照らすと、明らかに真逆であることがよくわかる。コミュニティは画一的で、硬直的。互いに競争しているために、すぐに助けを求める雰囲気はなく、自己肯定感は低い。頭の良さや外見、運動能力、年齢、性別など、「記号」でラベリングされ、序列化される。海部町の事例を踏まえると、いかに自殺予防因子が足りないかがよくわかる。

「あなたは一般的に人を信用できますか?」 “日本で最も自殺が少ない”徳島県の小さな町で目立った“意外な答え”とは

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事