子どもの人権を守る視点で、学校における理不尽なルール「ブラック校則」を見直す動きが進んでいる。しかし、「日本若者協議会」代表理事を務める室橋祐貴氏によると、そうした動きは日本よりも韓国の方が進んでいるのだとか。
家父長制が根強いイメージがある韓国の学校教育の現場で何が起こっているのか。ここでは、室橋氏の著書『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)の一部を抜粋し、韓国での子どもの人権尊重についての取り組みを紹介する。(全2回の2回目/1回目を読む)
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子どもの人権が認められ始めた韓国の取り組み
子どもの人権尊重は、ヨーロッパが最も進んでいるが、最近ではアジア諸国でも進んでいる。アジアで最も民主主義が発展した台湾も政策決定過程への若者の参画や学校内民主主義が広がっているが、ここではよりバックグラウンドが日本と近い韓国の例を見よう。
「ツーブロック」の禁止、「下着の色指定」「髪の一律黒染め」の見直しなど、日本でも校則見直しが進みつつあるが、少し先を歩いているのが、隣国・韓国だ。以前は多くの学校で、日本と同様に、生徒の頭髪・服装などが過度に制限されていたが、徐々に緩和が進んでいる。日本と同じく家父長制が根強い国である韓国では、どのように学校内で子どもの人権を保障する方向に転換してきたのか。徐々に校則見直しが始まった2000年代頃からの動きを見ていく。
京畿道の「児童生徒人権条例」による権利の保障
韓国での校則見直しの大きな転機になったのが、若者や市民の声で進んだ、自治体の「学生(児童生徒)人権条例」だ。韓国では2000年頃から、頭髪規制廃止を求める署名運動が起こり、児童生徒の人権問題が社会的な課題として認識されるようになった。
そして国政では、「児童生徒人権法」成立を目指し、革新系(リベラル)政党である民主労働党が2006年に「初・中等教育法」改正案を提出するが、会期満了により廃案に。地方自治体では、光州市が「児童生徒人権条例案」を作成したが、生徒指導の困難化を恐れる校長や教育庁によって阻まれ断念。
その後、2010年の統一地方選で進歩派教育監(日本でいう教育長に相当。韓国では教育監が住民の直接選挙で選ばれる)が当選し、2010年京畿道で「児童生徒人権条例」が制定されたのを皮切りに、光州市、ソウル市でも条例が制定された。
京畿道「児童生徒人権条例」は、「総則」「児童生徒の人権」「児童生徒人権の振興」「児童生徒人権侵害に対する救済」「補足」の5つの章によって構成されており、体罰の禁止、放課後や夜間に実施される強制自習の禁止、頭髪や服装など個性を実現する権利の保障、私生活の自由、児童生徒が学校運営や教育庁の教育政策に参加する権利の保障などが明記されている。