生徒と教師が相互尊重的な関係へ
他に、例えばソウル市では下記のような条文になっている。
ソウル特別市児童生徒人権条例(2012年制定)
第三条(児童生徒の人権保障の原則)
1 この条例において制定される児童生徒の人権は人間としての尊厳を維持し、幸福を追求するために必ず保障されなければならない基本的な権利であり、教育と学芸をはじめあらゆる学生生活のために最優先的にかつ最大限に保障されなければならない。
2 児童生徒の人権はこの条例に挙げられなかったことを理由に軽視されてはならない。
3 学則等の学校規定は児童生徒の人権の本質的な内容を制限してはならない。
第十二条(個性を実現する権利)
1 児童生徒は服装、頭髪等の容貌において、自分の個性を実現する権利を有する。
2 学校の長及び教職員は児童生徒の意思に反して、服装、頭髪等の容貌を規制してはならない。但し、服装に関しては学校規則をもって規制できる。
初めて「児童生徒人権条例」が制定された京畿道では、体罰は少なくなり、校則見直しも行われた。さらに、人権教育が進められたことにより、取り締まり中心の生徒指導から脱却し、生徒と教師の関係性が、相互尊重的なものに変わっている場面も見られるという。また生徒の学校運営への参加が進んだことにより、学校文化そのものが変わり、市民教育も大きく前進している。
「学校が無秩序になる」と現場の教師や保守派からの反感も
一方で、条例制定後も、「教権」(教師の教育する権利)が侵害され、学校が無秩序になるとの考えから、現場の教師や保守派からの反感もあり、必ずしも十分に現場に定着していないとも言われる。
条例制定後は教育庁や研究者などによって教師や児童生徒に対して各種質問紙調査などが行われてきた。条例制定1年後に教師・児童生徒・保護者に質問紙調査を行った金聖天は、学校が人権関連政策を進めるためにかなり疲労している反面、児童生徒の側は一部を除き大きな変化はないと考えているとし、問題の解決には教師と児童生徒の間、或いは児童生徒同士の「関係性」に着目する必要があるとしている。また、『2014 京畿道学生人権実態調査』では、教師と児童生徒、保護者の間に児童生徒の人権の状況について認識の差が表れており、頭髪規制や体罰といった児童生徒への人権侵害について、教師よりも児童生徒のほうが多く存在していると認識している。
『〈全国学生人権実態調査〉結果報告書2014』によれば、手や道具を使用した体罰は16の広域自治体中、京畿道が最も少なく、他の部分でも児童生徒人権条例が制定されている地域の学校では条例が制定されていない地域に比べて児童生徒の人権は尊重されているものの、体罰や頭髪規制などは完全になくなってはおらず、人権保障のための総合的な対策を示す必要が指摘されている。
(出羽孝行「京畿道児童生徒人権条例制定後の学校の変化に関する研究」2015年)
しかも、必ずしも教師側がキツく制限したわけではなく、生徒自身が制限を課す場合もあるという。