「法律や条例の策定」「実態調査」「人権教育」まとめ
(1)根拠となる法律・条例の策定
まずは、人権侵害となっている校則の見直しを進めていくための根拠となる、法律や条例の必要性だ。
本来的には憲法で規定されている人権は学校内でも守られるはずであるが、特に子どもに関しては教育指導の必要性から軽視される傾向が強い。
実際、日本の判例では学校にある程度の「部分社会の法理」(司法において、団体内部の規律問題については司法審査が及ばない、とする法理)を認めており、校則や児童生徒に特化した法律・条例の制定が望ましい。
ここ数年、教育委員会の方で校則に関するガイドラインを出しているところもあるが、法的根拠(拘束力)を明確にするため、やはり法律・条例が望ましい。
また教育の自治の考え方があるとはいえ、最低限の人権保障はどの地域、どの学校に通っていようが守られるべきであり、法律で制定することが望ましいのではないだろうか。
(2)定期的に行政が実態調査、介入(外部からも申立てできるように)
これまで見てきたように、法律・条例は必要であるが、それだけで十分ではない。きちんと実態に反映されているか、外部から定期的に実態調査を行う必要がある。
現に日本の教育委員会が校則について調査を行っているように、既存の行政内部の組織でも調査を実施することは可能だが、教育長などに大きく左右されることもあり、本来的には独立した機関が実施することが望ましい。
しかし日本では、「こども基本法」において、こどもコミッショナーの設置が見送られたように、子どもの権利を守るための国レベルの第三者機関は存在しない。1993年に国連総会で決議された「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)では、人権を守るための、政府から独立した国内人権機関の設置・運営を求めており、民主党政権時代などに本格的な議論も行われたが、日本では設置に至っていない。
(3)大人・子どもへの人権教育
最後が、大人、子どもへの人権教育の必要性である。やはり法案・条例が制定されても、その精神が理解されなければ、実態は大きくは変わらない。特に、これまで子どもの権利侵害が“問題ない”とされてきた日本においては、既存の指導方法を大きく変えることは簡単なことではない。大人、特に子どもと密接に関わる専門職への人権教育を強化しなければならない。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが公表した調査結果(「学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査」)では、子どもの権利について「内容までよく知っている」教員は、約5人に1人(21.6%)と、現状は全く十分ではない状況が明らかになっている。
「こども基本法」が施行され、文科省「生徒指導提要」(生徒指導に関する教師用のガイドブック)も大きく改善されるなど、徐々に子どもの権利に関する社会的認識は変わりつつあるが、行政が法律、条例や方針を策定して終わりではなく、各関係者間において、児童生徒の権利を尊重する意識が定着するよう努力を続ける必要がある、というのが、最大の示唆だろう。