過去十数年にわたって自殺者総数こそ減少傾向にあるものの、日本ではいまだ10歳~39歳までの死因1位は「自殺」となっている。先進国の集まりであるG7の中でも、若者の死因第1位が自殺なのは日本だけ。異常な状況はなぜ生まれてしまったのか。

 ここでは、若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事を務める室橋祐貴氏の著書『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)の一部を抜粋。日本で最も自殺者が少ない町に見られる、他の町との違いについて紹介する。(全2回の1回目/続きを読む

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自殺の少ない町の予防因子とは

 子どもの自殺は、2022年に500人を超えて過去最多となった。なぜここまで自殺する子どもが増えているのだろうか。通常、増加要因を分析していくのが一般的だが、これまでそれによって成果が出ていないことから、今回は逆に、自殺の「少ない」地域の特徴を見ていきたい。そこに自殺の予防手段を見出すことができるのではないかという思いからだ。

 岡檀・一橋大学経済研究所客員教授が書いた『生き心地の良い町』では、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」である、徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(現海陽町)を徹底的にフィールド調査し、5つの自殺予防因子をまとめている。

徳島県海部郡(写真:color/イメージマート)

自殺予防因子その1──いろんな人がいてもよい、いろんな人がいた方がよい(多様性を尊重する)

 海部町では、赤い羽根募金を募っても「何に使われるかわからないものに金は出さない」と一蹴されたり、高齢者を地域の老人クラブに勧誘しても「俺はいい」と断られたりと、周辺地域の中で募金額や加入率が最も低いという。しかし、それを咎める人もおらず、それぞれが自由に選択して、生きている。ともすると、こうした田舎町では、同調圧力が強く、勝手な行動を取ると浮いてしまう。しかし海部町では、そうした空気が一切ないという。

 特別支援学級の設置についても、近隣地域の中で海部町のみが異を唱えており、設置に反対する理由として町会議員はこう説明する。

「他の生徒たちとの間に多少の違いがあるからといって、その子を押し出して別枠の中に囲いこむ行為に賛成できないだけだ。世の中は多様な個性を持つ人たちでできている。一つのクラスの中に、いろんな個性があった方がよいではないか」