いじめ、モンスターペアレンツ、体罰、教師の過重労働……現代の学校には数多くの“理不尽”がはびこっている。それらはなぜ発生し、なぜ排除することができないのか。教師と弁護士の二つの立場から、教育問題を間近で見つめてきた神内聡氏の著書『学校弁護士 スクールロイヤーが見た教育現場 』(角川新書)より、ブラック校則の現状と根本的理由に迫る。
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ブラック校則はなぜなくならない?
校則は子どもの人権にとって、体罰と並んで昔からポピュラーなテーマである。特に近年は、社会常識に照らすとどう考えても不合理な「ブラック校則」の存在が議論の的だ。
ブラック校則の代表例は、次のようなものである。
(1)染髪を禁止する一方で、地毛が黒でない者は黒髪に染めるよう要求する。
(2)下着の色を指定し、指定した色の下着をはいているか教師が確認する。
(3)登校中に水を飲むことや、夏場の日焼け止めの使用を禁止する。
それぞれを法律的な観点から見てみよう。
(1)は、染髪を禁止する一方で、黒髪への染髪を強要する点でルールとして矛盾するだけでなく、地毛が黒でない者の髪を黒に染色することは傷害罪に該当する可能性があり、それを強要するのは強要罪であり、犯罪である。
(2)は、下着の色を指定するのもすでに法的には議論がありそうだが、教師が生徒の下着の色を確認することは明らかなセクシャル・ハラスメントに該当し、違法であるし、強要すれば強要罪であり、強制わいせつ罪すら成立する可能性がある。
(3)は、水分を補給することや日焼け止めを使用することは科学的に正しい。そのような行為を禁止して、生徒の健康に被害が生じれば傷害罪にもなりかねない。
つまり、ブラック校則は、ただ変な校則というだけでなく、法的にも違法であり、犯罪に該当するのだ。
管理・統制への執着
ではなぜ、現在もなお、こうしたブラック校則が存在するのだろうか。
前記のブラック校則の(1)(2)をはじめ、生徒から評判の悪い校則のほとんどは、「髪形」「服装」に関するものである。本来、髪型や服装は個人の自由に委ねられる事項であり、憲法では自己決定権とも解される権利の内容である。しかし、日本の学校のほとんどは「髪形」「服装」に関して何らかの基準を規定する校則を設けており、しかも、その多くは「高校生らしい」「中学生らしい」といったあいまいな表現で基準が設定されている。
なぜ、日本の学校は「髪形」「服装」の管理・統制にこだわるのだろうか。