日本では劇場公開されず、Amazonプライムビデオでのみ配信された映画が今年の米国アカデミー賞で作品賞など5部門にノミネートされ、脚色賞を受賞するなど高い評価を受けた。『アメリカン・フィクション』は米国社会が消費する“物語”を痛烈に皮肉った風刺コメディだ。
主人公のモンクは英文学を教える黒人の大学教授。小説家として確かな実績はあるが、出版社の受けが悪くて何年も新作を発表できずにいた。仲介するエージェントからは、
「もっと“黒人らしい”本を」
とアドバイスを受ける。
「つまり、警官に殺される若者やシングルマザーの話か?」
困惑を隠しきれないモンク。だが、巷では『ゲットーに生きて』と題したいかにも黒人貧困層の苦難を描いた小説が人気を博していた。物語と作者の生い立ちに関連はない。著者はNYの大手出版社に就職した高学歴エリートの若い黒人女性だ。実際の取材に基づいて書かれた小説というが、どうも釈然としない。マスコミはそんな彼女の小説を「痛いほどリアル」と持て囃す。呆れ果てたモンクは酒をひっかけ、偽名で“黒人らしい”小説を一気に書き上げる。
「ダメ親父、ラッパー、コカイン。最後は警官に殺される」
ゴミ小説と蔑む典型的な物語を書き、出版社へ送りつけた。偽物は見破られると高を括って。ところが、すぐに出版社が飛びつき映画化の高額オファーまで舞い込む事態に。
「生々しくてリアルで(中略)あれは経験者にしか書けない」
だが、小説を書いたのは両親と姉弟が皆、医者という中流家庭で育った黒人作家モンクだ。ステレオタイプと軽蔑してきた物語があっさり「売れる本」として受け入れられる現実。その背景には「他人の悲劇を免罪符として消費する」構造がある。これは単に黒人問題に限った話ではないだろう。モンクの嘆きが響く。
「ウンザリしないか?(中略)作り話とは言わないが、もっと他にもあるだろう」
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『アメリカン・フィクション』
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