日本で話題となった、第96回アカデミー賞におけるアジア系プレゼンターへの人種差別疑惑。一体、どのような環境で、どんなことが起こったのか。
混乱を呼んだ“変則的”な俳優賞の発表方法
まず、プレゼンターが5人もいた今年の俳優賞の発表方法は、通常と異なっていた。伝統的には、前年受賞者が異性カテゴリのプレゼンターをつとめる。
ただし、変則的なプレゼンター自体は珍しくない。たとえば、アジア系のミシェル・ヨーが受賞した2023年の主演女優賞において、トロフィー授与の役目をになったのは、前年ウィナーのジェシカ・チャステインではなく、彼女に同伴した約20年前の勝者ハル・ベリーだった。これによって成立したのが、同カテゴリ史上初の非白人受賞者が涙しながら史上2番目となった者にオスカー像をわたす歴史的ショット。アカデミーは、こうした「感動的な映画人のつながり」演出が大好きなのだ。
2024年の場合、歴代受賞者のプレゼンター5人がつどい、それぞれの候補へ賛辞を述べる豪華方式だった。2009年から2年連続で行われたものと似た形式で、その復活を求めるファンの声が高まっていたタイミングで行われた。
これが進行上の問題を生じさせた。5人のうち、トロフィー授与を行うのは、通例どおり前年受賞者である。今回、男女および主演と助演にわかれる俳優4部門すべての受賞者にとって、賛辞者と授与者とが別の人物だった。生放送ゆえに「演説45秒以内」時間制限の厳守を課せられている受賞者には、ゆっくりお礼をしていく余裕もない。
とくに、番組前半の助演部門において混乱を呼んだ。
一番目の助演女優賞では、大学の同級生ルピタ・ニョンゴからの賛辞に感極まっていた黒人受賞者ダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、壇上にあがるやいなや賛辞者に直行。ニョンゴとの抱擁中ランドルフが掴んでいたトロフィーは、彼女にほぼ無視されていた白人のベテラン授与者、ジェイミー・リー・カーティスが持ったままだった。