英国で速やかに医療にアクセスできるのは王族と特権階級だけ
次代の国王と王妃ならば、がん罹患のショックとプライバシー保護を訴える前に、英国で速やかに医療サービスにアクセスできるのは高額のプライベート医療を気兼ねなく利用できる王族と支配層、富裕層、高所得者の特権階級だけである英国社会の現実を自覚してほしい。
英国ではGPと呼ばれる一般医に紹介状を書いてもらわなければ病院で診療を受けられない。そのGPの予約を取るのも大変なほどNHS(国民保健サービス、原則無償)は逼迫している。GPの緊急紹介から28日以内に診断を受けられたのは71%(目標75%)。
GPの緊急紹介から2カ月以内に診断を受けて治療を開始できた人は62%(同85%)。医師が治療方針を決定してから1カ月以内に治療を開始できた人は88%(同96%)に過ぎない。治療を急ぐ人は医師から「治療をすぐに受けたいのならプライベート医療を」と囁かれているのだ。
ケンジントン宮殿は皇太子妃のがん公表に際し「皇太子夫妻は報道機関に皇太子妃の健康及び治療に関する個人情報を求め、入手し、公表することを控えるよう要請する。皇太子妃の健康状態や治療、子どもたちの健康状態について憶測で報道することを控えるよう要請する」と求めた。
なぜ英王室は“迷走”しているのか?
バッキンガム宮殿は国王管轄、ケンジントン宮殿は皇太子の管轄だ。ケンジントン宮殿が気難しいウィリアム皇太子を腫れ物に触るように扱っていることが分かる。ケンジントン宮殿のパブリック・リレーションズが迷走しているのは、皇太子に直言できる人がいないからだろう。
英王室の迷走は1月17日、ケンジントン宮殿からの緊急発表で始まった。
「皇太子妃は昨日、腹部手術のためロンドン・クリニックに入院した。手術は成功し、10日から14日間入院し、その後自宅に戻って療養する予定だ」
公務に復帰できるのは復活祭(3月31日)以降で「皇太子妃は子どもたちのためにできる限り平常心を保ちたいという願いと、個人的な医療情報が非公開であることを望むことを理解してほしい。今後、皇太子妃について重要な情報があった場合にのみお知らせする」と説明した。
ケンジントン宮殿はがんではないと言った。その1時間半後、バッキンガム宮殿から「毎年何千人もの男性と同様、国王も前立腺肥大の治療を受けた。良性で来週病院に通い、手術を受ける。国王の公務は療養のためしばらく延期される」と発表があった。筆者は、発表の順番が逆だと思った。