北朝鮮側の言い分は
北朝鮮の内部ですら、周知徹底できないほど、ドタバタした決定をせざるを得なかった理由はどこにあるのか。政府関係者らによれば、北朝鮮がAFCに伝えた理由は「日本で劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)が拡大している」というものだった。朝鮮半島を長年担当した外務省元幹部は「北朝鮮なら、ありうる理由」と語る。国立感染症研究所のホームページによれば、STSSは「突発的に発症し、急速に多臓器不全に進行する」という。日本でも「毎年100~200人の患者が確認されている。このうち約30%が死亡しており、きわめて致死率の高い感染症」だとする。
北朝鮮は医療体制が極めてぜい弱な国だ。医薬品や医療器具の絶対数が不足している。新型コロナウイルス感染症への対応もひどかった。北朝鮮当局は2020年1月に国境を封鎖。2023年8月まで、ごく一部の例外を除き、人の往来を許さなかった。北朝鮮は当時、各市町村にまたがる往来を禁じ、発熱などの症状が出た患者を強制的に隔離した。韓国政府関係者は当時、「北朝鮮が伝染病にどれだけの恐怖感を抱いているかが、よくわかった」と語っていた。致死率3割の伝染病ともなれば、緊張することは大いにありうる。
日本でのSTSS流行については、3月20日に韓国・中央日報が、英紙ガーディアンなどを引用する形で報道。北朝鮮の労働新聞も3月21日付の第6面で、「日本で今年、死亡率の高い伝染病が急速に拡散している」と報じた。
ただ、日本では武見敬三厚労相が1月19日の記者会見でSTSSに言及していた。武見氏は、昨年1年間の患者数が、過去最多となる941人(速報値)に上ったことを紹介。「溶連菌は飛沫感染及び接触感染になるので、手指衛生や咳エチケット等の基本的な感染対策が重要」と述べ、感染症対策の徹底を呼び掛けていた。会見録は厚労省のホームページでいつでも確認できる。2月、女子サッカーのパリ五輪最終予選で北朝鮮のサッカー女子代表も来日している。