3月26日に平壌・金日成競技場で開催されるはずだった、サッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会アジア2次予選、日本対北朝鮮戦。2011年11月以来、13年ぶりの平壌開催が目前だった21日、突如、北朝鮮側が「受け入れ不可能」と伝えてきた。日本サッカー協会(JFA)は22日、予定されていた26日の試合について、中立地でも行わず、中止になったと発表した。
一方、金正恩総書記の実妹、金与正朝鮮労働党副部長が25日、岸田文雄首相が最近、「早期に正恩氏と直接会いたい」と伝えてきた事実を明らかにする談話を発表。日本と仲良くしたいのか、困らせたいのか、よくわからない展開だ。サッカー中止を巡る真相は闇の中だが、ドタバタの舞台裏について関係者の証言をたどると、北朝鮮独特の、ある意味、「らしい」状況が浮かび上がる。
「嫌がらせ」だったのか?
「北朝鮮が平壌での開催を受け入れないと言い出した」。日本政府内に「平壌開催中止」の情報が流れたのは21日午前のタイミングだった。北朝鮮側は21日朝、アジアサッカー連盟(AFC)に「平壌での開催に応じられない」と伝えてきた。AFCの本部があるマレーシア・クアラルンプールと東京の時差が1時間あることもあり、日本側に情報が伝わるのが遅れた。AFCは日本時間午後4時までに代替案を提出するよう求めたが、北朝鮮側は応じなかった。
日本政府内の一部からは「北朝鮮特有の嫌がらせではないのか」という声も漏れた。「もともと、平壌開催に応じる気がなかったのではないか」「平壌での試合を有利に運ぶための攪乱策ではないのか」など、様々な声が上がった。ところが、ドタバタしていたのは、日本だけではなかった。
日本側は翌22日には北京に向け、日本代表らの領事業務をサポートする日本外務省の先発隊が東京を出発する手はずになっていた。日本と北朝鮮は国交がないため、日本の外交官は外交旅券が使えない。北朝鮮に入国するためにはビザも必要になる。先発隊は22日午後、北京の北朝鮮大使館でビザの発行手続きを済ませ、23日に平壌に入る手はずを整えていた。日本側は当然、北朝鮮がビザの発給や宿舎の平壌・高麗ホテルの宿泊予約をキャンセルしただろうと考えた。
ところが、北京の北朝鮮大使館に問い合わせると、大使館関係者も「平壌開催の中止」という事実を知らなかった。「やるのか、やらないのか」。日本側は散々気を持たされたあげく、「北京への出発中止」が関係者に伝えられたのは、21日午後9時過ぎだったという。さらに可哀そうだったのが、北朝鮮代表チームだ。代表チームが「平壌開催の中止」を知ったのは21日夜の対日本代表戦が終わった後だった。関係者の間では「選手を動揺させないために、試合前に伝えなかったのではないか」という声も出たほどだ。