総裁選で「無党派は宝の山だ」と訴えた
元東大生D では、なぜ小泉さんは5年5か月に及ぶ長期政権を維持することができたのでしょうか。
小泉 私が一番大事にしたのは無党派層だった。実は、選挙でも政党や団体に入ってない有権者が多く支持してくれる候補は強い。それをわかっていた。国民の圧倒的多数は無党派だから、そういう人々はどう考えているかっていうことを自分の選挙でも常に考えてきた。自民党総裁選挙に出た時も、自民党員が投票する選挙なのに「無党派は宝の山だ」と訴えていたんだ。
たしかに、初めて選挙に立候補した時から「支持団体は大事だ」といろんな人に聞かされてきたよ。立候補すればわかるけど、選挙運動を一生懸命手伝ってくれるのは、党組織と業界団体。農業、漁業、建設業、郵便局もそう。さまざまな団体があって、各地区で自民党公認候補を応援してくれる。頼りになるんです。
ところが、業界団体というのは自分の業界が良くなることを中心に考える。それに、支持団体の会員というのは全人口から見れば、ごくわずかなんだよ。自民党員だって多い時でも、全国1億人の中で数百万人ぐらい。つまり、いつの時代でも、世の中の圧倒的多数は党員になってない人間です。そういう無党派がなにを考えているかまで考えないと政治家は務まりません。
総理になれば、なおさらですよ。自民党総裁だけれども、総理というのは全国民のためのリーダーなの。野党の言うことも聞かなきゃいけない。そういうことを考えて、私は総理としてやってきた。だから、団体の言いなりになるのは党のためにならないと言ったわけだ。「国民あっての自民党なんだ」という考えをずっと持っていたから、自民党が反対していた郵政民営化もできたんじゃないか。無党派を大事にする。今でもその考えは変わらないですよ。
蒲島 政治学的に言うと、小泉総理が現れる以前は選挙にとって「総理は誰でもいい」というのが選挙の理論だったんですよ。選挙結果に対する党首イメージの影響はほとんどない、と。でも、それが森(喜朗)総理、小泉総理の2人が現れたおかげで、党首のイメージというのがいかに投票行動を決める上で大事かということになった。だから、小泉政権というのは大きな理論的な貢献をした。日本の選挙の理論を変えたんです。
「今こういうことを決めてきた」の一言で
元東大生E 我々のゼミで『小泉政権の研究』(木鐸社、2008年)を書くために、総理秘書官をしていた方にインタビューした時、こんなお話を聞かされたことがありました。小泉さんが経済財政諮問会議をやっていた会議室から出てきて、必ずしも調整が終わってないことを報道陣のぶら下がり取材を受けている最中に「今こういうことを決めてきた」というふうに言ってしまった。そうすると、もうそれは決まったことにせざるを得ない、と。小泉さん自身は意図的にそういうことをやっていたのでしょうか。
小泉 経済財政諮問会議は私が総理になる前、森政権の時にもあったんです。構成メンバーは同じだけども、一番の違いは、会議を実質的に主宰する大臣が竹中平蔵さんだったということです。