ナン・ゴールディンは、1970年代から続く長いキャリアを誇る写真家だ。自身を含むLGBTQピープルを撮ることから始め、ゲイ文化やパンク/ニューウェイヴ、ドラッグ・カルチャーに関わる面々など、自分と同じ経験と社会的スティグマを共有する仲間たちを被写体とした写真群で時代を切り取ってきた。
鎮痛剤で自身もオピオイド中毒に
そんなナンの歩みと戦いを追う『美と殺戮のすべて』は、「2in1」構成のドキュメンタリーだ。つまり、️(1)1953年生まれのナンの幼少期からの人生と経歴を辿るパート、そして(2)彼女が2017年に設立した薬害抗議団体“P.A.I.N. (Prescription Addiction Intervention Now)”の活動記録。この2つが並行し絡み合ってクライマックスに向かう。
ナンが歩んできた人生の記録は生々しく、時に痛い。幼い頃に亡くした姉の存在に囚われ、実の親に捨てられ、里親たちからも見放された彼女が行き着いたのは、ボストンやニューヨークといった都会の片隅。居場所を見つけるも、そことて安住の地とはならず、自己肯定と迫害の間を綱渡りし、一時はセックスワーカーとして生計を立てざるを得ないほど追い詰められる。それでも、自分と仲間たちの存在を証明するかのように写真を撮り続け、やがて名を成すこととなった。