ゲットーの路上から、ラップ・ミュージックのスーパースターへ。1981年、イランで生まれたジワ・ハジャビことXatar(カター)は、イスラム革命により迫害されたクルド人の両親に手を引かれドイツのボンへ亡命します。その後、父親が家を去りシングルマザーになった母親を助けるため10代で手を染めはじめた悪事が徐々にエスカレート。やがてコカインの密売、金塊強盗といった罪を犯して逮捕され、禁錮8年の刑を言い渡されます。しかし刑務所に密輸したディクタフォンで自らの半生を綴ったラップを録音し、獄中からアルバムを発売したところ大ヒット。劇中でも引用されていたアメリカの代表的なギャングスタ・ラッパー50CENTも顔負けの“リアル”なラッパーとして、大きな成功を収めます。
映画で描かれる彼の人生がすべて真実かは…
いわゆるヒップホップと呼ばれる音楽のなかでもとりわけギャングスタ・ラップはリアリティとオーセンティシティが重要なジャンルで、ラッパーの出自や生き様に語る価値があるのか、それに嘘がないのかが問われます。他方、ギャングスタ・ラップというひとつの型が確立されたことで、ラッパーたちのほうも世間から求められる“ギャングスタ”のイメージを進んで演じるようになったところがある。その意味では映画で描かれるカターの人生も、すべて真実かどうかは眉唾です。
というのも、『RHEINGOLD ラインゴールド』の元ネタになったカターの自伝の副題に「The World is Yours」という言葉が含まれているんですね。これは映画『スカーフェイス』に繰り返し登場するフレーズですが、『スカーフェイス』といえばギャングスタ・ラップにたびたび引用されてきたアイコン的な作品。その映画を象徴する言葉を自伝の副題に冠したのは、カターがある種のセルフブランディングとして自らのイメージをステレオタイプなギャングスタ・ラッパーに寄せようとしているからではないか。とはいえ、虚実入り交じるリアリティこそがギャングスタ・ラップの本質だと考えるならば、カターはやはりきわめて“正当”なギャングスタ・ラッパーだということになります。