ラップが世界に広がった今、重視されるオリジナリティ
ラップ・ミュージックがアメリカの黒人だけのものではなくなった昨今、世界中のラッパーたちが、自分の過酷な環境や生い立ちをビートに乗せて歌いはじめました。そこで重要になるのがオリジナリティで、先人たちのスタイルを真似するだけでは単なるコピーだと揶揄されるおそれがあります。カターだって「50CENTのドイツ版じゃないか」と批判されていたかもしれない。そんな彼に固有性を与える作劇が、本作のミソです。
映画のタイトル『RHEINGOLD』は、カターが強奪した金塊とワーグナーの歌劇『ラインの黄金』にちなんだもので、この引用のセンスはカターの父親がクラシック音楽家だったこととリンクします。カターは父親の影響で幼い頃からピアノを習い、刑務所で楽曲制作をはじめたのも面会に来た父親に促されたことがきっかけでした。“ワル”のリアリティに加え、欧州のクラシック音楽の素養と親から受け継いだ才能をもつハイブリッドな存在──。これまでにも“移民”を背景とした作品で欧州の映画界で高く評価されてきた名匠ファティ・アキンの脚色によって、カターは唯一無二のオリジナリティを獲得したのです。
INTRODUCTION
『ソウル・キッチン』(09年)や『女は二度決断する』(17年)などで世界的に高い評価を受けるファティ・アキン監督が、実在するラッパーで音楽プロデューサー、カターの破天荒な半生を描いた。ドイツで約1000万ドルの興行成績を上げ、監督最大のヒット作となった。カターは亡命、両親の離婚、貧困にあえぎながら、犯罪もいとわず自身の力で成り上がり、2枚のアルバムがチャート1位を獲得、手掛けたレーベルでもヒットを飛ばしスターとなった。
STORY
クルド系音楽家のもとに生まれたジワは、一家でパリに亡命しドイツのボンに移り住み音楽の英才教育を受けるが、やがて両親は離婚し貧困を味わう。ジワはストリートで勝つためにボクシングを覚え、カター(Xatar:危険なヤツ)となる。ドラッグの売人、用心棒などで金を稼ぎ、金塊強盗をして投獄される。しかし、刑務所でレコーディングした曲がヒット、文字通り“ギャングスタ・ラッパー”になり音楽プロデューサーとしても成功してゆく。
STAFF&CAST
監督・脚本:ファティ・アキン/出演:エミリオ・ザクラヤ、カルド・ラザーディ、モナ・ピルザダ/2022年/ドイツ・オランダ・モロッコ・メキシコ/140分/配給:ビターズ・エンド/3月29日公開