1ページ目から読む
5/5ページ目

全員笑顔だった空気が一変

 1時間ほどの顔合わせが終わり、僕らスタッフは帰ろうと、出口の方に行った。

 その時だった。

 イイジマサンが、顔をこわばらせて、その場にいた現場マネージャーに声を荒らげて言った。

ADVERTISEMENT

「メンバー全員、地下の会議室に集めて――」

 さっきまでの全員笑顔だった空気が一瞬にして変わった。

 イイジマサンは、番組スタッフには何があったか説明することはなかった。ただ、急に慌てた空気がその場を動かし始めて。

 メンバーが続々と地下の会議室に向かう。

 イイジマサンのその表情で、何かが起きていることだけは分かった。

 メンバーが急遽会議室に入っていったので、スタッフチームは自分たちだけ帰るわけにはいかないと、近くで待つことになった。

 30分経ち、1時間が過ぎても、会議室からメンバーが出てくることはなく。

 僕はスタッフと「何話してるんでしょうね」と想像してみるが、見当もつかない。

 途中で、スタッフの1人が「もう帰りましょうか」と言ってくれたので、帰ることになった。

 帰る間際に会議室から漏れ聞こえた言葉から、嫌な予感だけがした。

タクヤが語ったこと

 その翌日。ラジオ収録があり、タクヤに会った。

 僕が我慢できず、タクヤに「昨日、何話してたの? あんなに長く」と聞くと。

 タクヤは「あぁ~」と言って、軽い感じで続けた。

「グループを辞めたいって言ったメンバーが1人いるんだよ」

 タクヤらしく、さらりと言ったが。

 わざとそういうトーンで言ってくれているのが分かった。

 春からの新番組のビジュアル撮影、スタッフとの顔合わせをした日に、グループを脱退したいメンバーがいたというとんでもない事実。

 僕は体の震えをおさえて、あえて平静を装ったが、やっぱり我慢できなくて聞いてしまった。

「誰が辞めるって言ってるの?」

 そう聞くと、タクヤは、僕の目を見て言った。

「モリ」

 また、さらりと言った。

 わざと。

 彼らしく。

もう明日が待っている (文春e-book)

もう明日が待っている (文春e-book)

鈴木 おさむ

文藝春秋

2024年3月27日 発売