全員笑顔だった空気が一変
1時間ほどの顔合わせが終わり、僕らスタッフは帰ろうと、出口の方に行った。
その時だった。
イイジマサンが、顔をこわばらせて、その場にいた現場マネージャーに声を荒らげて言った。
「メンバー全員、地下の会議室に集めて――」
さっきまでの全員笑顔だった空気が一瞬にして変わった。
イイジマサンは、番組スタッフには何があったか説明することはなかった。ただ、急に慌てた空気がその場を動かし始めて。
メンバーが続々と地下の会議室に向かう。
イイジマサンのその表情で、何かが起きていることだけは分かった。
メンバーが急遽会議室に入っていったので、スタッフチームは自分たちだけ帰るわけにはいかないと、近くで待つことになった。
30分経ち、1時間が過ぎても、会議室からメンバーが出てくることはなく。
僕はスタッフと「何話してるんでしょうね」と想像してみるが、見当もつかない。
途中で、スタッフの1人が「もう帰りましょうか」と言ってくれたので、帰ることになった。
帰る間際に会議室から漏れ聞こえた言葉から、嫌な予感だけがした。
タクヤが語ったこと
その翌日。ラジオ収録があり、タクヤに会った。
僕が我慢できず、タクヤに「昨日、何話してたの? あんなに長く」と聞くと。
タクヤは「あぁ~」と言って、軽い感じで続けた。
「グループを辞めたいって言ったメンバーが1人いるんだよ」
タクヤらしく、さらりと言ったが。
わざとそういうトーンで言ってくれているのが分かった。
春からの新番組のビジュアル撮影、スタッフとの顔合わせをした日に、グループを脱退したいメンバーがいたというとんでもない事実。
僕は体の震えをおさえて、あえて平静を装ったが、やっぱり我慢できなくて聞いてしまった。
「誰が辞めるって言ってるの?」
そう聞くと、タクヤは、僕の目を見て言った。
「モリ」
また、さらりと言った。
わざと。
彼らしく。