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研究開発は「ライフスタイルを作りたい」と強く思ったから

――おっしゃる通りJINSは次々と革新的な製品を開発して、視力矯正を必要としない人でもかけたくなるような新しい市場を創り出しています。そうした新しいことを既存のメガネ業界ができなかったのは、どうしてだと思いますか?

田中 そもそも、自分たちで開発研究をするという概念がなかったのではないでしょうか。未だに小売りはメーカーが開発したものを仕入れる、という既存のビジネスからどこも脱していないところが多い。なぜなら、ヒットするかわからないものに研究開発費を投入するのは、コストも体力も必要ですから。

 

――では逆に、なぜJINSにはそれができたのでしょう。おっしゃる通り結果が出るかわからないものに研究開発費を投入するのは、リスキーなことでもありますよね。

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田中 それは、我々が常に「人真似でなく自分たちが時代を作りたい」、「ライフスタイルを作りたい」と強く思っているからです。ですから、どの製品に関しても研究に関しては迷わずスタートさせました。それをしないと、差別化できません。安くても絶対的な品質の良さがなければ、お客様は見抜きますよね。それでは早晩行きついてしまう。ですから、躊躇はなかったですね。

――これまで既存のメガネ業界とは異なる考え方で様々なサービスや製品を産み出すことができたのは、やはり業界外から参入したということが大きいのでしょうか。

田中 大きいかもしれないですね。自分のなかに業界の常識や慣習が染みていなかったので、まっさらな目で見ることができたのだと思います。それが、常識を疑うきっかけになったのかもしれません。ビジネスとして関わるまでは、サングラスぐらいしか買ったことなかったですから(笑)。

――ちなみに、現在はメガネを何本ぐらいお持ちなんですか?

田中 最近使っていないものまで含めれば、50本ぐらいですかね。

日本だけは、ベーシックなものが売れる

――現在、海外の店舗も増えてきていますね。

田中 現在中国に125店舗、台湾に19店舗、アメリカに4店舗を展開していまして、今後フィリピンへの出店も予定しています。

――国によってユーザーの志向性に違いはあるのでしょうか。

田中 ありますね。トレンドという点では、日本だけが特殊かもしれません。アメリカと中国と台湾は比較的トレンドが近いのですが、日本だけはスクエア型などベーシックなものが売れるんです。おもしろいなぁと思いました。海外の企業が日本に来て苦戦するのもわかります。

――どうして日本だけ特殊になるのでしょう?

田中 国民性でしょうか。冒険することをあまり好まないなど、人より目立ってはいけないという意識があるのかもしれませんね。

 

“メガネを販売する”ビジネスモデルからの脱却

――冒頭にマーケットは縮小しているというお話もありましたが、今後も新しいニーズを創出していけば、マーケットの規模は広がるとお考えですか。

田中 それほど大きくは広がらないのではないでしょうか。今はお客様のお金の使い方がどんどん変わっています。もうモノを買うことにさほど興味がないのではないですかね。高付加価値製品は別ですよ。たとえばフェラーリのような高級車は、単に車を所有するのではなく、“フェラーリに乗る”という体験や価値にお金を払っている側面もある。こうした付加価値を提案できないコモディティ化(汎用品化)されたものは、ハードだけでは難しいでしょう。

――そうなると、メガネ店もさらに淘汰されていく時代になると。

田中 ならざるを得ないでしょうね。それは自戒も込めて。我々もつねに変わらないといけないと思っています。そういう意味では、じつは今“単にメガネを販売するビジネスモデル”から脱却したいと考えているのです。

写真=平松市聖/文藝春秋

(「JINS社長が語った『メガネをタダで配る』未来型ビジネスモデル」に続く)