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メガネの販売からソフトに移行する可能性

――それが先ほどおっしゃっていた、メガネを販売するビジネスからの脱却、を意味するのですね。

田中 このジンズ・ミームが誕生したことで、メガネのビジネスは単にメガネそのものを販売することから、ソフトに移行していく可能性が現実味を帯びてきました。極端な話、もうメガネをタダで配ってもいいのではないかとすら思っています。そうして配布したメガネから得られるサービスに対して課金してもらう。テスラモーターズのイーロン・マスクのように、社会を変えるイノベーションを起こせるのではないか。それができると、ジンズは一気に世界企業になっていけると思っています。

 

――これまで以上に、人々のライフスタイルに大きな変革をもたらしそうですね。スケールの大きな話です。

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田中 やはりメガネ業界も、現在のマクロ経済のなかでどのような在り方がお客様に相応しいのかをつねに考えていかないと。我々はそこにチャレンジしていかなければいけないと思っているのです。実際にタダで配れるのかという課題はありますが、それぐらい大胆にものごとを考えられるようにならないと、新しいサービスは生まれてこないと思います。

これまで進化していなかった業界

――先ほど働き方改革の話もありましたが、今後はメガネを作るというより世の中のシステムを作っていくような、そうしたビジネスにフィールドを広げていかれるのでしょうか。

田中 もともと、新しいライフスタイルを作るとか、新しい時代を作ることへの興味が強いのです。

――では、既存の“メガネ”としての所有欲をより満足させる製品を販売しようというお考えは?

田中 それは並行ですよね。並行させていくなかで、店舗の役割も変わっていくでしょう。今のようにたくさんのスタッフを配置して店舗で接客して販売するという形態を、EC含めてどのようにデジタルとテクノロジーによってシームレスにつないでいくかというのもチャレンジの一つです。我々は小売りの在り方も変えてみたいと考えています。

 

――いずれ実店舗はなくなる可能性も……?

田中 お店というのは、“お店でなければできない体験の場”としては成立すると思うんですが、ただモノを買うだけならECで済んでしまいます。現在ECでは、「JINS BRAIN(ジンズ ブレイン)」といって人工知能(AI)がメガネの似合い度を判定してくれるレコメンドサービスを提供していますが、それで似合うメガネができあがるのであれば、わざわざお店に行く理由がなくなってくると。そうなったとき、実店舗の価値を再定義する必要が出てきますよね。

――今日お話しを伺っていて、“メガネ”とは何か、という既成概念がガラガラと崩壊しました。今後、もうメガネという形にはこだわらないのでしょうか。

田中 いや、あくまで主軸はメガネですよ。ここがおもしろいと思っています。それだけメガネはライフスタイルにおいて重要なアイテムであるし、一方で進化していなかった業界でもある。だから、進化させがいがあるんです。メガネというものの本質を考え抜くことで、まだまだイノベーションを起こしていける。そう思っています。

 

写真=平松市聖/文藝春秋