五十嵐 一番は毎日お風呂に入れるようになったことです。実家に友達を呼べなかった反動で、しょっちゅう友達を招いて夜通し遊んだり、全てが最高でした。困ったことは、最初お風呂掃除のやり方が分からなかったことくらいでしょうか(笑)。実家が貧しいことは、社会人になってからは自分からオープンに話していました。貧乏エピソードは結構いい“つかみ”になるんです。
――生活水準は上がりましたか?
五十嵐 初任給は手取り14万円程でしたが、職場の食堂でランチを食べたり週に1回くらい飲みに行ったり、「これだけ贅沢をしても、こんなにお金が残るのか」と驚きました。区役所に勤めていた4年間で約300万円貯金しました。
――公務員を辞めたのはなぜですか?
五十嵐 区役所は働きがいがありましたが、休日にも電話がかかってきたり月100時間以上の残業が続くような激務だったので、「このままでは漫画を描かず一生が終わってしまう」と思い退職しました。「これだけ貯金があれば、画業が軌道に乗るまでの数年はアルバイトをすれば生きられるかな」と思えたことも大きいです。
「生活保護の意義」とは?
――生活保護を受けると、そこから抜け出すのが難しいイメージがあるのはなぜだと思いますか?
五十嵐 生活保護費は「生活費として足りない分を補う」ための支援なので、働いてお金を稼ぐとその分、定められた割合の金額が生活保護費から差し引かれます。そのため最大でも月に3万~5万円程しか使えるお金が増えないので、働く意欲が湧きにくいのかもしれません。
また、自立するための貯金も少しずつしかできません。しかし、それなら稼いだ分もっと多く手元に残るようにした方がいいかというと、悪用する人が出てくるかもしれないので難しいのだと思います。
――そもそも、生活保護を受けながら貯金してもいいのですか?
五十嵐 自立するための引越し費用など、正当な目的があれば貯蓄できるはずです。私は高校時代アルバイト代を貯めて、就職時の引越し費用などに充てました。
――生活保護を受けたことで、人生観に影響はありましたか?
五十嵐 「いざというときは行政に頼ってもいいんだ」と知ることができたのは大きいと思います。もちろん自分で何とかするのが大前提ですが、病気や事故で働けなくなっても死ぬ危険はない。セーフティーネットがあるからこそチャレンジできることがあると思います。
「生活保護はズルい」という意識があまりにも強いと、いざ支援が必要な状況になったときプライドが邪魔をして利用しにくくなってしまうかもしれません。それよりは普段から寛容にとらえて、しんどい状況になったら行政に助けてもらい、そこから自立を目指すことができる社会のほうが良いのではないかと思います。
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