「父親が家を空けると決まって、母と弟との“秘密ごっこ”がはじまった」
幼少期からあらゆる虐待を受け続け、親の呪縛から逃れるため人生を賭けて「母を捨てる」までの軌跡を描いたノンフィクション『母を捨てる』(プレジデント社)。壮絶な半生を自ら綴った作家・菅野久美子さんが苦しめられてきたものの一つが、親の“宗教”だったという。本書より、一部を抜粋・改訂して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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家の小さな神棚に祈りを捧げていた
宗教2世という言葉が世間的に広く知れわたるようになったのは、2022年7月に安倍晋三・元首相が山上徹也被告に襲撃され、旧統一教会が話題になった最近のことだと思う。私は山上徹也被告と同じく、宗教2世である。
母は長年にわたって、とある小さな新興宗教にのめり込んでいた。母がその新興宗教に入信したのは、私が物心ついてすぐだ。振り返ってみるとその原因としては、何より母が父と不仲であることが大きかった気がする。母が宗教にハマった理由、それは母が抱えていた寂しい心の隙間を埋めてくれたからなのだ。
とにかく幼少期の私は母に言われるまま、毎日のように家の小さな神棚に一心不乱に祈りを捧げていた。
子どもにとって母の言うことは絶対だった
その宗教の教えを簡単に説明すると、こうだ。宇宙にはすべてをつかさどる大きな神様がいる。それは宇宙の大本をつくった神だ。だから私たちはその神に、一心不乱に祈りを捧げなければいけない。
子どもにとって母の言うことは絶対なのだ。だから、疑うことは許されない。そうして私は毎日、神棚にお布施をさせられた。しかし、私たちが神に祈っていることは、父には内緒だった。
「お父さんには、このことは内緒。絶対に言っちゃだめ。あいつは、神様の話をすると不機嫌になるから」
私は母から口酸っぱく、そう言い聞かされた。父の前で、けっして宗教の話をしてはいけないし、父の前で祈ってはいけない。父が学校に出勤すると、「ようやくオヤジが出ていったが。さぁ久美子、お祈りするよ!」と母の号令がかかる。
すると私と弟は一様に神棚の前に集合し、ひざまずき頭を下げて手を合わせた。それは、傍から見たら奇妙な光景だっただろう。