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「母と私と弟だけの“秘密ごっこ”がはじまって…」“宗教2世”の少女が親を信じられなくなった瞬間

『母を捨てる』より#1

2024/06/04

genre : ライフ, 社会

note

母と私と弟だけが知っている“秘密ごっこ”

 どんなことがあっても毎日、この時間だけは欠かしてはいけない。父が家にいる土日も、それは例外ではなかった。父が出かけた隙を見計らって、私たちは熱心にお祈りをした。幼い頃は、私はこのお祈りをゲームのように無邪気に楽しんでいた。これは母と私と弟だけが知っている、秘密ごっこなのだ。それが無性に嬉しかった。私は、いろいろなことを「神様」にお願いした。そのほとんどが母に関することだった。国語の教師だった母に喜んでもらうために、私の文章が世間から評価されるよう願った。

 どうか、投書した原稿が新聞に載りますように。応募した作品が賞を取りますように。ボツになりませんように。母の期待に応えられますように。そして、お父さんとお母さんが喧嘩しませんように。だって神様は、私たちの願いを叶えてくれるのだから――。幼い頃、私はそう信じて疑わなかった。

 そして、母に連れられて、ときたま教団の施設に出かけて、お(はら)いの儀式を受けた。

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 不幸中の幸いと言えるのは、昨今問題になっている旧統一教会のように、家庭の財産を全部もっていかれることはなかった点だ。神道系の新興宗教であり、カルト宗教のような悪徳さはなかったが、母の過剰なまでの陶酔は、いつしか私を苦しめるようになっていた。母は私の成功を、神のおかげだと喜ぶようになったからだ。

※写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

成長するにつれて、宗教を疑いはじめるように

「久美子が新聞に載ったのは、神様のおかげだからね。神様に毎日お祈りをしていたからなんだから」

 しかしそれは、私が血のにじむような努力を重ねた成果にほかならなかった。

 母は、それをけっして認めようとしない。いや、少しは認めていたかもしれないが、やはりすべては「神」のなせる(わざ)なのだ。

 私は、自分が成長するにしたがって、底知れぬ無力感に苛まれるようになっていた。私は、ただただ母の愛に飢えていた。私はいつだって、母の愛情の埒外(らちがい)にいるしかない存在なのだ。

 私は成長するにつれて、母が熱狂してやまない宗教を少し疑いはじめるようになった。