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セリーヌ・ソン もちろん意識していました。物語だけでなく愛する二人の会話によって成り立つ映画という点でも共通点は多いですよね。

――一方で『パスト ライブス/再会』は、ロマンチックな恋愛映画というより、人々が自分の失った過去と向き合いそれを受け入れるまでの物語ともいえます。監督ご自身は、この映画をラブストーリーと捉えていたのでしょうか?

セリーヌ・ソン たしかにこれは、デートをして付き合う恋人たちを描いた、いわゆる典型的なラブストーリーではありません。愛とはただロマンチックな関係に限らず、人と人との間をつなぐ何かだと思う。人は誰かとつながることによって孤独を癒やしたり郷愁を感じたりする。それは恋人同士だけでなく友達同士にも当てはまること。この映画は、そういうタイプの愛を扱ったラブストーリーかなと感じています。

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“縁”は魔法のような言葉

――典型的なラブストーリーと違うように見えるのは、ヘソンとノラとの間に肉体的な接触が描かれないことも大きいのかもしれません。

セリーヌ・ソン 二人がオンラインでしか会えなかった20代のときには、おそらく互いに、キスをしたい、セックスをしたい、という欲望を抱いていたはずです。でもそれから12年が経ちついに再会を果たしたとき、ノラはすでに別の男性と結婚をし、その夫にとても愛されているので、若い頃のような気持ちはもう消えてしまっているわけです。

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 だからといって、若い頃の欲望や、もっと幼い頃の二人の感情がリアルではないと言いたいのではありません。それらもまた、かつてたしかに存在した感情です。どのようにお互いを見るか、どのようにお互いとつながりたいと思うのか、それは長い時間とともに変わっていくものです。子供の頃の初恋の想いと、若い頃のエロティシズムな欲望、それから12年経ったあとに抱く穏やかな感情。そこにヒエラルキーはありません。ただ人間の関係性は次第に変わっていくものだ、というだけなのです。

――この物語は、日本人の私から見るととても親しみやすい物語だと感じました。それは今おっしゃったようなプラトニックな関係性を描くことや、劇中で印象的に使われる“縁(イニョン)”というテーマのためかもしれません。アメリカではこの言葉はどのように受け止められたのでしょうか?

セリーヌ・ソン “縁”は魔法のような言葉だと思います。「私とあなたが今同じ空間にいるのは前世からの縁だね」と表現することで、自分の人生や相手とのつながりがより深く豊かなものになるんです。