19世紀後半、植民地アイスランドの辺境の村に教会を建てる使命を受けた、デンマーク人の若き牧師ルーカス。彼は通訳と現地人ガイドを雇い海辺から馬に乗り村へと向かうが、想像以上に厳しい環境のなかでその心は徐々に狂気に蝕まれていく。壮大な風景を舞台に、1人の男の旅の行方を哲学的に描いた『ゴッドランド/GODLAND』。監督はアイスランド出身のフリーヌル・パルマソン。植民地と宗主国の間にある複雑な愛憎関係が描かれた映画の背景には、アイスランドで生まれ育ちデンマークでも長く暮らした監督の実体験がある。

「私のルーツを探求する映画だといえます。私は2つの国をよく知っています。2つの言語を話し両方の文化に自分が根付いていると感じる。何より両国間の深い繋がりと誤解の歴史に興味がありました」

 デンマーク語を話すルーカスとアイスランド語しか話せないガイドのラグナルを始め、2つの言語をめぐる対立が描かれる。

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「私がこの物語に惹かれた理由の一つは、まさに言語をめぐる二カ国間の大きな違いでした。アイスランドでは教育によってデンマーク語を話せる人は多いけれど、デンマークでアイスランド語を理解する人は少ない。そもそもアイスランド語は他の言語には全く似ていない独自の言語で、国外で学ぶ人は少ないはず。言語の点でも、アイスランドという国は長い間周囲から孤立していたんです」

フリーヌル・パルマソン監督

 映画は2部構成。前半ではルーカスら一行の旅の様子がロードムーヴィー風に描かれ、後半ではようやく辿り着いた村で起こる不穏なドラマが展開される。驚くのは前半の旅の苛烈さ。氷河が覆う湖や険しい山中での撮影は苦労も多かったはず。

「非常に過酷で体力を使う撮影でした。同時に、とても楽しいものでもありました。私たちは約3カ月の撮影期間中、夜もずっと野外で過ごしていました。夏のアイスランドでは、夜も完全には日が沈まず1日中明るいまま。その不思議な雰囲気のなか、動物や鳥たちと一緒に過ごし撮影を続けるのは特別な経験でした」

 実際、白夜下での幻想的な光の美しさには圧倒される。

「本作は35ミリフィルムを使い、全編自然光で撮っています。すべてを現実のままに映したかったのです。撮影場所の多くは、私が生まれた家のすぐ近くや今住んでいる家の近所、真夏に家族でキノコを採りにいく森など、どれも馴染みのある場所ばかりです」

 劇中、他では中々見られないシーンがある。馬が死んだ後、完全に土に還るまでを映した映像だ。一体どれほどの時間をかけて撮影したのか。

「実際に私の父が飼っていた馬の一頭を映した映像です。馬が死んだとき、私たちは高さ4メートル近くの台を作り、その上から死体が段々と腐りやがて自然と同化していく様を2年かけて撮影しました。これは以前に写真で試した手法で、この映画にも使えるはずだと考えたのです」

 恐ろしいほどに荘厳な風景にまずは驚いてほしい。

Hlynur Pálmason/1984年、アイスランド生まれ。デンマーク国立映画学校で学び、短編を数本手がけたあと、『ウィンター・ブラザーズ』(2017)で長編デビュー。長編第2作『ホワイト、ホワイト・デイ』(2019)はカンヌ国際映画祭の批評家週間に出品された。

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映画『ゴッドランド/GODLAND』
3月30日公開
https://www.godland-jp.com/