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24年ぶりに再会した「初恋の相手」と夫と3人でバーへ…「典型的な三角関係」とは違う、特別な“縁”

『パスト ライブス/再会』セリーヌ・ソン(映画監督)

2024/04/06
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 ソウルで育った少女ノラと少年ヘソン。幼い二人の初恋はノラの海外移住によって唐突に終わりを告げる。12年後、ニューヨークとソウルに暮らす二人はオンラインで再会を果たすが、想いは通じないままさらに12年が過ぎる。その間にノラはアメリカ人の夫と結婚。そしてついに二人の対面の時がやってくる。

 24年という年月を経て再会した二人と、忘れられない初恋の行方を追った物語。ベルリン国際映画祭に出品され、アカデミー賞にノミネートされるなど、世界中で話題を呼んだ『パスト ライブス/再会』。監督は、これがデビュー作となるセリーヌ・ソン。彼女自身、幼い頃に韓国からカナダへ移住し現在はアメリカを拠点に活躍している。この鮮烈なデビュー作について、ソン監督にお話をうかがった。

セリーヌ・ソン監督

この物語で悪役を担うのは、24年間という時間と太平洋

――まずはこの映画の成り立ちについて聞かせてください。この物語はどのように生まれてきたのか。また劇作家でもあるソン監督が、なぜこれを演劇作品ではなく映画にしたいと思われたのでしょうか。

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セリーヌ・ソン この映画は、私自身の体験に基づいたものです。数年前、私は幼なじみの韓国人の男性とアメリカ人の夫と一緒にバーで時間を過ごしたことがありました。二人はそれぞれ韓国語と英語しか話せなかったし、彼らが育った文化は全く違っていたので、私は通訳として二人の間に立つことになりました。そのときふいに気づいたのは、私はただ文化と言語を橋渡ししているのではない、自分の人生における二つの時代を結ぼうとしているのだ、ということでした。

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 私はいつもジョークで言うんですが、この物語で悪役を担うのは、24年間という時間と太平洋なんですよね。時間と空間によって、ノラとヘソンのつながりは阻まれてしまったのですから。だからこそ、この話を描くには、まずソウルとニューヨークという遠く隔てられた二つの場所をリアルに描くこと、そして12歳の子供と36歳の大人を作品の中で共存させることが必要でした。そのためには、演劇ではなく、映画という表現手段がもっともふさわしいと考えたのです。

――私がこのあらすじを聞いてまっさきに思い浮かべたのは、リチャード・リンクレイター監督の『ビフォア~』シリーズでした。特にシリーズ2作目の『ビフォア・サンセット』は、「もしもあのときこうしていたら」という過去の可能性を反芻する物語として、本作と重なる部分が多いように思います。ソン監督は、このシリーズを意識されていたでしょうか?