アジア人にとって“縁”は馴染みのある概念ですが、アメリカやヨーロッパではほとんど知られていません。でも説明をすると大抵の人は「自分もそういう体験をしたことがある」と言う。つまり体験としては万国共通だけどそれを描写する言葉がなかっただけなんです。この映画が世界各国で公開されたことで、いろんな言語で“縁”という言葉が発音されそれぞれの体験談を聞くことができたのは、とても楽しい経験でした。
喧嘩や罵り合いをする代わりに、お互いの存在を認めあおうとする
――主演の二人(グレタ・リーとユ・テオ)はもちろん、ノラの夫であるアーサー(ジョン・マガロ)の存在も素晴らしいですね。アーサーがヘソンと初めて会ったときの、ぎこちなく、けれど互いの善良さが滲み出てくる様子が大好きです。あの二人の微妙な関係性をどのように演出されたのでしょうか。
セリーヌ・ソン アパートで二人が対面する場面、あれはヘソン役のユ・テオとアーサー役のジョン・マガロが実際に初めて会うシーンでもあるんです。リハーサルはせず、二人には直前まで別々のところにいてもらい、カメラをまわすときに初めて対面してもらったのです。ファーストテイクの二人があまりにもよかったので、映画ではその最初のテイクを使っています。
もうひとつ大事なのは、バーでノラが席を外したあと、二人だけで話す場面です。あの場面の背景で流れている音楽は、ジョン・ケイルの「You Know More Than I Know(君は僕よりも知っている)」という曲。まさにノラを暗示させる曲ですよね。二人はどちらも、ノラについて自分しか知らないものを持っている、と感じているわけです。
さきほど、この映画は典型的なラブストーリーのジャンルには当てはまらないだろうと言いましたが、あの場面は、あたかも三角関係の典型的な描写に見えます。でも実際にそこで起こっているのはまったく別のことです。二人の男たちは、喧嘩や罵り合いをする代わりに、お互いの存在を認めあおうとする。自分たちがどう振る舞うのが彼女にとっていちばんいいことなのか、その認識を共有し合うことで、ノラに完璧な愛を届けようとする。だからこそ、あのバーの場面はこの映画にとって重要なシーンなのです。
INFORMATION
『パスト ライブス/再会』
4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ