龍崎 私は地方創生にかかわるプロジェクトにもいくつか関わってきましたが、こうすれば土地の空気感が言語化できますとか、魅力をキャッチーに伝えられますといったわかりやすい方向に流れていくことのデメリットもすごく感じています。こと観光業は支配関係が生じやすい分野だと思っていて、〈観光する主体〉〈客体としての地方〉の関係で開発されると、宗主国と植民地みたいな構図になりやすい。
辻 グアムのようなリゾート地の歴史ですよね。
龍崎 そう。経済的な支配関係、お金を払っている側が対価としてのサービスを受けるのは当然だよね、みたいな資本主義の論理が人の生活圏に入っていく。そんな観光業がもっている原罪みたいなものに、無自覚であってはいけないと感じています。
辻 地域の文化に向き合ってビジネスをする際のそういう誠実さはすごく大切で、少し話を広げると、昨今社会課題領域でビジネスをする試みが増えてきました。それ自体は素晴らしいことだと思いますが、痛みを抱えた当事者たちを「消費」しているように感じることもあります。
引きの目でみたときのソーシャルイシューの中に、寄りの目でみて一人ひとりの痛みがあることを決して忘れてはいけないと思う。例えば2023年のジェンダーギャップ指数125位の日本では、上場企業の女性役員の割合はこの4年でようやく2桁台、13.4%になりました。数字だけみればわずか数年で改善したともいえますが、男性役員ばかりに囲まれた環境下で圧倒的マイノリティとして女性がいても、当人の良さを発揮しづらいでしょう。どんなテーマ、題材に取り組むときも、数字の向こう側で、誰かが痛みを背負っていることに自覚的でありたいと思っています。
自分自身のパーソナルな課題として捉える
龍崎 すごくわかります。社会課題に関していうと、私自身は「社会課題」という言葉って曖昧でつかみどころがなく、「架空の誰か」が苦しんでいる感じがしてしまうんですよね。
だから、社会課題という課題はなく、むしろ「あらゆる社会課題は誰かの個人的な課題である」と思うようにしています。たとえば産後、親に頼れなくてすごくしんどいという人たちがいたら、自分が将来その当事者になるかもしれない「if」の世界として、自分自身のパーソナルな課題として捉えられる解像度を持っていたい。産後ケアリゾート「HOTEL CAFUNE」をつくったのも、まだ子どものいない脳天気な自分が、未来の自分を助ける気持ちでやったことです。
辻 それ、めっちゃいい話。
龍崎 あと最近、「やわらかい旅行社」という、摂食嚥下障害がある人が旅に行けるようにするためのプロジェクトもやっているのも、今まわりに当事者はいないけれど、もしかしたら30年後とかに、自分や家族がそういう状況に陥っているかもしれない――どこかのパラレルな世界線にいる自分を助ける気持ちで取り組んでいます。