辻 「if」の自分を想像する感覚ってすごくわかるし、私は今年29歳になりますが、歳を重ねるごとに、いろんな痛みが世の中にはあることへの解像度がすごくあがってきたんですよ。会社をやっているといろんな修羅場があるし、出会う人もいれば、別れる人もいて、いままで気づきもしなかった社会の痛みや課題に目を開かれて。
「選挙割」キャンペーンというクリエイティブジャンプ
龍崎 辻さんはこれまで、クリエイティブの力で社会課題にアプローチする試みをいろいろされてきましたよね。ブランディングを手掛けたタピオカ専門店「Tapista(タピスタ)」で行った「選挙割」とか。選挙にいって投票済証明書をもってタピスタに行くと、ドリンク全品「半額」になるキャンペーンにはびっくりしました。
辻 あれは若い世代の投票率アップをねらって2019年の参議院選挙で行った施策で、当時ちょうど報道番組の「news zero」に出始めて、「こんな若い女の子に政治のこと語らすな」みたいな風あたりも強かった中、政治って本当は私たちの生活と地続きなのに、そこがすごく線引きされているように感じたんですね。タピオカを飲むような若い人たちと政治を橋渡しする何かをしたい、つまり一見関係ないと思われているものをアイディアによってつなぎたかった。
龍崎 それこそがまさに「クリエイティブジャンプ」なんですよね。クリエイティブジャンプとは、課題を一気呵成に解決する「非連続な思考」の技術を指しますが、辻さんの打ち手はその5つの軸にぴたりと当てはまります。
1つ目は「アセット(資産・資源)の再定義」。タピオカ屋といえば若い女性が行く場所という一般的なイメージを読み替えて、「政治に声が反映されづらい有権者たちが集まる場所」と新しい価値を再定義しています。
2つ目の「時代の空気感を言語化する」は、タピオカ飲んでるような若い女が政治に口を出すなんて生意気だ、みたいな時代の空気を踏まえたアンチテーゼとしての企画になっている。
辻 確かに!
龍崎 そして3つ目「インサイトを深掘りする」においては、世の中では「若い世代の人たちは政治興味ないでしょ?」と思われているけど、実は「投票に行った方が格好いいよね」というカルチャーが潜在的にあった。ただ表立って政治的な話をすると、「痛い奴」「意識高い」みたいな見られ方をしてしまって言いづらい。でも本当は政治に対する意思表示も気軽にしたいよねという潜在的な心理を刺しにいっています。
4つ目の「異質なものをマッシュアップする」、選挙とタピオカという対極にあるものを一緒に組み合わせることで意外性“常識に対する裏切り”を生んでいます。
そして最後の「誘い文句をデザインする」という観点から見てもすぐれた施策で、要するにすごくメディアが取り上げやすいんですよね。2行でインパクトのある記事タイトルを書ける内容だし、友達に説明するときも「渋谷のタピスタに投票済証を持ってったら、半額になるらしいで」「まじ? 行こう」って、日常のナラティブにのりやすい。
ということで、最高のクリエイティブジャンプの実践例なわけです(笑)。