ただ、白米には産地や品種、味などの差があって、当然、値段も違いますよね。人によってその差の捉え方は異なり、「味がまったく違う」という人もいれば、「どれも同じ」という人もいるわけで……。
(1)吊り裏毛を現代に蘇らせた「ループウィラー」
――なるほど。コーヒーやお茶にも通じるところがありますね。では、ひと言でいうなら、価値観や感じ方の違いですか?
光木 言ってしまえばそうです。でも、中には「値段相応、いやそれ以上の価値がある」と思うブランドもあるんです。たとえば、僕が20代の頃から愛用している「ループウィラー」。希少な旧式の吊り編み機を使い、正統なスウェットを作り続けている日本のブランドです。
――やはり生地が特別なんですか?
光木 スウェットの生地は、「裏毛」と「裏起毛」の2つに大別されます。「裏毛」は「裏パイル」とも呼ばれ、タオル生地のように小さな繊維の輪が無数に並んでいます。タオルのように柔らかく、吸水性や吸湿性にも優れています。裏毛のスウェットは薄手ながら保温性があるのが特徴で、春や秋は一枚で、冬はインナーとして、夏は羽織りモノとして重宝します。
中でもループウィラーの裏毛は、吊り編み機で編まれていることから、「吊り裏毛」と呼ばれます。
現代のスウェットにはない“魅力”とは?
――裏毛の中でも特別な生地なんですね。
光木 旧式の吊り編み機は1960年代まではスウェット生産の主流でしたが、その後、大量生産の波に飲まれてどんどん数が減り、現在は国内にも数台しか現存していません。
和歌山県にあるループウィラーの工場を取材したことがありますが、旧式の吊り編み機が編める裏毛は1時間にたったの1mほど。現在使われているシンカー編み機だと、その何十倍も編むことができるんです。しかも、セットアップが難解で、メンテナンスにもおそろしく手間がかかります。
――生産効率が低いのに、なぜ、使い続けるんでしょう?
光木 現代のスウェットにはない魅力があるからです。吊り裏毛は、編むスピードが遅い分、糸を無理に引っ張りません。結果、生地にストレスがかからないため、生地がふっくらと嵩を増し、肌触りもふんわりソフトに仕上がるんです。ぷっくりと膨らんだループ状の裏毛は、旧式の吊り編み機ならでは。同時にしっかりとしたコシがあるのも特徴で、洗濯を繰り返しても型崩れしにくく、着れば着るほど体になじんできます。