ここ最近、1万円を超える白無地Tシャツが売れているという。ユニクロやヘインズなら1000円台でも質の高いものが買えるのに、何の飾り気もないTシャツに、一体なぜそんなに高いお金を出すのだろうか。ブランドだから? それともそれだけの価値があるから? 白無地Tシャツを年間330日以上着るという“白無地T愛好家”であるスタイリスト、稲田一生氏(40)に聞いた。(取材・構成/押条良太)

写真はイメージ ©iStock.com

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年間330日以上、白無地Tシャツを着る理由

――白無地Tシャツにハマったきっかけを教えてください。

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稲田一生氏(以下、稲田) ずばりロマンですね。白無地Tシャツは、数ある服の中でもっとも華麗な“成り上がり”を果たした服だと思うんです。

 もともとTシャツは単なる肌着でしたが、1950年代のアメリカで、俳優のマーロン・ブランドが映画に白無地Tシャツ1枚の姿で登場したことがきっかけで大流行したんです。さらにジェームズ・ディーンやブリジッド・バルドーといったセレブたちもこぞって愛用しました。こうして白無地Tシャツは、“反骨精神のあるイケてる服”に成り上がったんです。日本でも白洲次郎がジーンズにあわせて着ていました。

――ただ、Tシャツにはいろいろな色やデザインがあるのに、なぜ今、白無地なんですか?

稲田 昔から、「白の無地Tシャツしか着ない」という愛用者は一定数いました。ですが、ここ2、3年、飾り気のないシンプルな服がトレンドになっていることもあって、着ている人が一気に増えた気がします。表参道や青山を歩いている人たちを観察してみてください。世代を問わず、本当によく見かけますから。ブランドやセレクトショップも、必ずと言っていいほど定番の白の無地Tシャツを展開しています。ただ、人気が爆発した一番の理由はトレンドではなく、みんなが「使える」ということに気づいたからだと思います。

スタイリストの稲田一生さん

――そんなに便利なんですか?

稲田 とにかくどんな服装にもマッチします。ジーンズはもちろん、スラックスなんかに合わせてもいいですし、ジャケットの下にシャツがわりにも着られます。白は万能色ですから、色合わせも簡単。白い服を着ると、光を反射するレフ板効果によって顔色がぱっと明るく見えるんです。

 私自身も、白の無地Tシャツを30枚ほど持っていて、年間330日以上は着ています。朝、クローゼットの前に立つと、反射的に手が伸びます。

――たしかに爽やかなイメージはありますね。とはいえ、白無地なら、2000円とか3000円でも、そこそこのものが買えるわけですよね。1万円はさすがに……。